前提を疑う01 医療費と財源/JAPAN
公平性と価値を同時に測る指数は、作れるのか
公平性と価値を一つの数字で測れないか——そう考えて式を組み、壊した記録である。必要度で割る形はHI指数になっておらず、負の価値重みは集中度指数の解釈を壊す。詰めるほど、既に存在するDCEAへ近づいた。そして本当の問題は重みの決め方ではなかった。どれだけ良い医療が行われているかという水準と、それが誰に届いているかという分布は、一つの数字に潰してはいけない。日本の水平的不公平については2025年に827,168人・13波の全国分析が出ており、需要調整後は小さいと報告されている。「前提を疑う」シリーズ第6回。
ダイジェスト解説 VIDEO
前回の記事では、自己負担の設計をめぐって、所得に基づく差別化(高額療養費制度)・年齢に基づく差別化・VBID(Value-Based Insurance Design)という3つの異なる軸が別々に議論されていることに触れた。この3つは、いずれも「公平性の確保」という同じ目的の異なる側面を扱っているようにも見える。所得に関わらず必要な医療を受けられているか、年齢に関わらず必要な医療を受けられているか、そして受けている医療が臨床的に価値のあるものかどうか——これらを1つの指数に統合できないか、という発想である。今回はこの発想を、実際の経済学の文献に照らして検証する。「前提を疑う」シリーズ第6回。
エビデンス整理
水平的公平性指数(HI指数)の方法論——Wagstaff and van Doorslaerの枠組み
この発想の一方の柱となるのが、医療経済学で「水平的公平性指数(Horizontal Inequity Index、HI指数)」と呼ばれる、確立された測定手法である。Wagstaff and van Doorslaerの基礎論文は、年齢・性別・健康状態といった「必要度(need)」を回帰モデルで標準化した上で、その必要度調整済みの医療利用が所得順位に対してどれだけ偏っているかを集中度指数(concentration index)で測る、という2段階の手法を確立した1。集中度指数はもともと所得以外の任意のランキング変数、任意の医療変数に対しても適用できる汎用的な統計手法であり、広く使われているStataコマンド「conindex」も存在する2。この手法は2000年代以降、方法論の精緻化が進み、社会経済的地位指標の選び方や二値アウトカムの扱いをめぐる議論3、パネルデータを用いることで横断データより大きな親富裕層的不公平が明らかになるという知見4が積み重ねられてきた。早い時期の欧州委員会の報告書も、医療アクセスの不平等を測定する各種指数の中でこの手法を整理している5。
もっとも、この手法にも限界がある。集中度指数は所得に関連した不公平のみを捉える指標であり、それ以外の要因による不公平や、医療サービス提供そのものの質的な不公平までは捉えられない6。つまりHI指数は「誰が医療を受けているか」の偏りは測れても、「受けている医療がどれだけ価値のあるものか」は、そのままでは測れない。
VBID:公平性ではなく価値に基づく差別化
もう一方の柱がVBIDである。VBIDは、臨床的便益が費用を上回るサービスには自己負担を軽くして利用を促し、便益が費用に見合わないサービスには自己負担を重くして利用を抑制するという、自己負担を臨床的価値に応じて差別化する設計思想である7。実証研究では、VBIDプログラムによって服薬アドヒアランスが0.1〜14.3パーセントポイント改善し、総医療費の増加は見られなかったという系統的レビューがある一方8、アドヒアランス改善は確認されても総医療費の有意な削減までは示されなかったとする、より慎重なレビューもある9。より新しいメタ分析では、心血管疾患治療薬で最大の改善効果(4.05パーセントポイント)が見られ、自己負担を完全に免除する設計は部分的な軽減にとどまる設計より2倍以上効果が大きいことも示されている10。米国のメディケア・アドバンテージにおけるVBIDモデル実証事業でも、対象とした18の高価値サービスのうち10について利用が増加したと報告されている11。
VBIDには、公平性という側面も指摘されている。自己負担の引き上げは低所得者・慢性疾患患者といった経済的に脆弱な層で健康格差を悪化させるとして、臨床的便益に基づくVBIDが代替案として提案されている12。ただしこれは「VBIDは公平性にも配慮した設計思想である」という一般論であり、VBIDの効果を所得階層別に定量的に測定する指標——たとえばHI指数のような——とは異なる。
公平性と価値をつなごうとする既存の試み
では、この2つの柱——HI指数とVBID——を実際に統合しようとした研究はあるのか。隣接する分野として、費用対効果分析(CEA)に公平性の視点を組み込む研究群がある。公平性加重法は増分費用効果比を調整することで公平性を考慮し、分配的費用対効果分析(DCEA)は社会厚生関数を通じて公平性を表現する、といった手法が整理されている13。しかしこの分野でも、公平性をどの指標に対してどう重み付けするかについてコンセンサスは得られていない14。医療における「価値」そのものの定義についても、57のフレームワークを対象とした系統的レビューが、価値の属性が9つのカテゴリーに分かれ、そのうち29が何らかの重み付けを、さらにその29のうち19が多基準意思決定分析(MCDA)を用いていることを示しており、価値の定義・重み付け手法そのものにコンセンサスがないことが分かる15。公平性と効率性のトレードオフを引き出す手法についてのスコーピングレビューも存在する16。
ここで、隣接概念との混同にも注意が必要である。「バリューベース・ヘルスケア(VBHC)」という、支払い方式やアウトカム測定を含む医療提供システム全体の広い概念を扱ったスコーピングレビューがあるが、これは自己負担設計に特化したVBIDそのものとは異なる17。また、新型コロナ流行前後の欧州における医療利用の公平性変化を検証した研究は、水平的公平性には有意な変化がなく垂直的公平性は悪化したと報告しているが、ここで使われている「fairness gap」という指標はHI指数の集中度指数とは異なる分散ベースの手法である18。なお本稿は当初、垂直的公平性を「所得階層間の格差」と説明していたが、これは誤りである※訂正。同論文自身の定義では、horizontal equity は「同じ必要度なら同じ医療」、vertical equity は「必要度の大きい人ほど、それに応じて多く医療を受ける」である。所得階層間の格差のことではない。
結論から言えば、HI指数の需要標準化された不公平測定と、VBIDの価値加重を直接組み合わせた研究は、少なくとも今回の検索範囲では見つからなかった。
ただし「公平性と価値を統合する枠組みそのものが存在しない」と書くのは誤りである※訂正。分布考慮型費用対効果分析(DCEA)がまさにそれにあたる19。総健康便益、費用と機会費用、社会集団間の健康の分布、そして不平等回避度を同時に扱い、Equally Distributed Equivalent という単一の社会厚生指標へ落とし込むところまでできる。近年は、これを value-based pricing に公平性を組み込む方法論へ拡張する研究も出ている。
だから本稿が言えるのは、もっと狭いことである。
Wagstaff型の所得関連HI指数と、サービス単位のVBID的な価値分類とを直接組み合わせた指標は、今回の検索では確認できなかった。
そして先回りして言えば、この記事の後半で自分の式を詰めていった結果、たどり着いたのはDCEAの近くだった。
各国の水平的公平性指数——所得によって医療利用パターンは一様ではない
HI指数そのものは、多くの国で実際に計算されている。カナダでは、一般医・専門医への受診が親富裕層的な不公平を示す一方、入院医療は親貧困層的な不公平を示すという、サービス種別で方向が逆転するパターンが全国・州・都市部/農村部で一貫して見られた20。中国の高齢者を対象とした調査では、医療利用の確率・頻度の両方に強い親富裕層的な不公平が見られ、世帯消費水準の格差が最大の寄与要因だった21。同じく中国の農村部では、集中度指数自体は一貫して親貧困層的(必要度の高い低所得層の医療需要を反映)だったが、外来医療のHI指数だけは2012年に一度だけプラス(親富裕層的)に転じ、それ以外の年は一貫して親貧困層的なままだった——持続的な傾向の転換というより、単年の例外として扱うべき結果である22。アルゼンチンでは、必要度を揃えてもなお高所得層の方が医療サービスを多く利用しているという明確なHI指数(0.1296)が報告されており、教育水準や社会保障加入状況といった非必要度要因がこれを押し上げていた23。イランでは、外来医療が親富裕層的、入院医療が親貧困層的と、外来と入院で不公平の方向が逆転していた24。スウェーデンの精神医療では、2006年度から2014/15年度にかけて親貧困層的な傾向が強まったが、新型コロナ流行期には非北欧系移民において有意に親富裕層的な不公平に転じるという、時期と対象人口によってパターンが変化する結果も報告されている25。中国の他の地域でも、公的医療資源配分の公平性を実証的に分析した研究や26、公平性と効率性を同時に評価した研究がある27。
これらを通覧すると、一つの明確な傾向は見えてこない。外来が親富裕層的で入院が親貧困層的な国もあれば、その逆の国もあり、時期によって方向が変わる国もある。HI指数は「measure(測定手法)」であって、「answer(答え)」を一つに定めるものではない。
日本のデータでは何が分かっているか——数少ない、そして食い違う二つの研究
日本国内でHI指数を実際に計算した研究は、決して多くない。東京圏の25〜50歳住民3,378人を対象にした2012年の調査研究では、外来医療は親富裕層的(HI=0.043)、特に定期的な外来受診はより強く親富裕層的(HI=0.063)であり、受診控えは低所得層に集中していた一方、入院医療の粗い利用は低所得層に偏っていたが、必要度調整後のHIはわずかに親富裕層的だった28。ところが、市区町村の公立病院データを用いた2007年の別の研究では、外来医療の利用はむしろ低所得層に有利(親貧困層的)だったと報告されている。公立病院への一般会計繰入金(税金による補助)は高所得層の多い地域に偏って配分されていた一方、脳血管疾患の入院医療についてはほぼ完全に水平的公平性が達成されていたという29。
この2つの研究は、外来医療の不公平の方向について正反対の結果を示している。対象集団や分析単位が異なるため単純には比較できない。
ただし「日本の方向性さえ分からない」と書いたのは誤りである※訂正。2025年12月に、全国規模の長期分析が出ている30。1986年から2022年までの全国調査13波、20歳以上827,168人の反復横断データを用いた研究で、結論はこうである。
Horizontal inequity remained limited throughout the study period after adjusting for healthcare needs; that is, actual healthcare use was closely aligned with healthcare needs
Although pretax income consistently contributed to an unequal distribution of healthcare utilization in favor of the rich, the impact was modest and was mitigated by the growing pro-poor contributions of residence-based health insurance plans and health insurance programs for older adults
日本全体の水平的不公平は、需要を調整すれば小さい。税引前所得は一貫して富裕層寄りに効いているが、その効果は穏やかで、国民健康保険と高齢者医療制度の貧困層寄りの寄与が相殺してきた——制度が公平性を作っている、という結果である。
(この論文は、本稿の姉妹回である自己負担の記事で既に出典に挙げていた。だがそこで拾ったのは「70歳以上は原則1割」という背景の一文だけで、主結果を使っていなかった。引いておきながら読み落としていた、というのが正確なところである。)
なお、NDBの全国レコードを用いてHI指数を計算した査読研究は、今回の調査範囲では見つからなかった。ただし基盤の側は動いている※訂正——NDBには2022年3月診療分以降、患者の居住地情報と所得階層情報が付与されている。「基盤が無い」のではなく、「基盤はでき始めたが、それをHIへ変換した研究の蓄積がまだ乏しい」というのが正確である。
日本の費用対効果評価制度に、公平性の視点はあるか
VBID側についても、日本の状況を確認する必要がある。中央社会保険医療協議会が運用する費用対効果評価制度に関する公式資料を通読すると、「公平性」という語は一貫して品目間で同一の分析ガイドラインを適用するという手続き上の公平性を指しており、所得や必要度に基づく分配的な公平性への言及は見当たらない。希少疾患・小児・抗がん剤への配慮も疾患区分に基づくものであり、患者の所得に基づく公平性加重の仕組みは制度に組み込まれていない31。国立国会図書館のイシュー・ブリーフも、欧州・オーストラリアなど諸外国がHTA(医療技術評価)導入の根拠として「公正・公平な医療資源の配分」を挙げてきた経緯を紹介しているが、これはあくまで他国の制度導入の理由付けとしてであり、日本自身の制度に組み込まれた仕組みとしては描かれていない32。
「基盤がそれぞれ半分ずつ欠けている」という書き方も、正確ではなかった※訂正。日本には ICER・QALY・公的分析・価格調整を含む費用対効果評価制度があり、希少疾患・小児・抗がん剤への配慮も制度に組み込まれている。欠けているのは制度そのものではなく、所得等の社会経済属性に応じた分布的な公平性の重みづけ(equity weight)や、DCEA型の社会厚生関数が制度化されていないという一点である。
高額療養費制度をめぐる、分配的公正の視点からの批判
この論点は、抽象的な議論にとどまらない。日本総合研究所の2025年のレポートは、高額療養費制度の政策的課題を「①必要な医療へのアクセス確保」(公平性)と「②非効率な医療の抑制」(価値)という2つの目的の両立として明示的に整理し、費用対効果に基づく診療ガイドラインで低価値な医薬品の給付を抑制することと、年齢・診療形態に基づく自己負担区分を廃止し負担能力に基づく区分に一本化することを提言している33。これは、本記事が検証してきた「公平性と価値の統合」という論点に、国内の政策提言の中で最も近づいたものと言える——ただし、それは定性的な提言であって、定量的な指数を伴うものではない。
なお、米国のVBIDについては続きがある※追記。Medicare Advantage の VBIDモデルは、2025年末で終了した。Medicare Trust Fund への追加コスト(2021年約23億ドル、2022年約22億ドル)が理由である。VBIDという概念そのものの失敗を意味するわけではない——同モデルには補足給付、リスク調整、social-needs への介入が混在していた——が、初期の「利用が増えた」という評価だけで止めるのは公平ではない。
そしてVBIDは、公平性と実装上すでに接近していた※訂正。CMSのVBIDモデルは2020年以降、対象の選定条件に社会経済的地位を使えるようになり、2025年には地域の剥奪指標まで用いたターゲティングと Health Equity Plan を導入している。「公平性とVBIDは別々の研究者集団」という整理は、実装の側では既に成り立っていない。確認できないのは、Wagstaff型HIでその公平性を定量化し、VBIDの価値指標と統合するところである。
厚生労働省自身の検討資料も、現行の所得区分の粗さを問題視している。年収約370万円の世帯と約770万円の世帯が同一区分に含まれるなど、区分をまたぐと自己負担上限額がほぼ倍になる急激な変化が生じるという34。そしてこの批判は、制度改正として実際に動いた※追記。2026年8月から年単位の上限額が新設され、2027年8月からは所得区分が約370〜510万円・約510〜650万円・約650〜770万円へ細分化される。粗さの指摘が、区分の細分化として実装された形である。高額療養費専門委員会が示した試算はより具体的である。年収約550万円で胃がんにオプジーボを使用する50歳男性は、高額療養費制度により年間医療費が148.8万円から48.6万円へ(67.3%減)軽減される一方、年収約200万円で再発乳がんの40歳女性は年間44.7万円を負担し、これは世帯の可処分所得の52.8%に相当して、WHOの定める「破局的医療費」の閾値(40%)を上回っていた35。2014年の全国消費実態調査を用いた別の分析でも、高齢者・介護世帯の約17%が破局的な医療・介護費負担を経験していたと推計されており、医療の自己負担単体の破局的影響は限定的で累進的な税制を通じて負担の公平性はある程度確保されているとしつつ、自己負担と社会保険料を合わせた負担の逆進性が強まりつつあると警告されている36。
私見・考察
前回の記事の私見で、私は所得別の公平性・年齢別の公平性・VBID的な価値weightingを一つの指数に統合できないかというアイデアを提起した。今回それを実際の文献に照らして検証した結果は、率直に言えば「まだできていない」というものだった。ただし、これは面白くない結論ではない。むしろ、なぜできていないのかという理由の方に、価値のある発見があった。
まず技術的には、この統合は不可能ではないように見える。集中度指数は数学的に任意の変数を任意のランキング変数に対して指数化できる汎用的な手法であり、通常の医療利用量の代わりに、VBID的な価値の重みを掛けた「価値加重利用量」を使うことも、原理的には可能なはずである。私が前回考えていたイメージを定式化すると、次のようになる。
ここで はサービス の利用量、 はそのサービスの臨床的価値に応じた重み(VBIDの発想に基づき、高価値サービスは大きく、裁量的・低価値サービスは小さく、場合によっては負の値を取る)、 は年齢・性別・健康状態から求めた需要標準化後の期待利用量、 は集中度指数である。この値がゼロに近ければ、所得に関わらず、必要度どおりに、かつ臨床的価値の高い医療が受けられている、という意味になるはずだった。
だが、この式はそもそもHI指数になっていない※訂正。標準的なWagstaff型のHIは、実利用の集中度指数から必要度の集中度指数を引くか、間接標準化した利用量について集中度指数を計算する。必要度で「割る」わけではない。比にすると、必要度の小さい人で値が発散し、ゼロ近傍で不安定になり、標準的なHIとの比較可能性も失われる。
もう一つ、重みに負の値を許したのも危うい※訂正。相対集中度指数は平均値で規格化するため、価値加重和の平均がゼロ近傍や負になると、指数の解釈が壊れる。高価値に+2、低価値に−2を与えるような net value score を通常のCIに入れることはできない。
——そして、ここを詰めていくと行き着く先がある。価値を正負で統合し、社会全体の厚生として評価する枠組みは、既にDCEAが持っている。自分の式を直そうとするほど、DCEAに近づいていった。
しかし文献を検証してみると、この式は絵に描いた餅に近い。第一に、価値の重み の specification には、そもそもコンセンサスがない——57の価値評価フレームワークを調べたレビューでさえ、重み付け手法が統一されていないことを示している。第二に、利用量を価値加重した瞬間、「必要度」の側も同じ基準で価値加重し直さなければ、指数全体の意味が崩れる。需要標準化のモデルは通常の利用量を予測するために作られており、「価値加重された必要利用量」という概念自体が、既存の枠組みには存在しない。第三に、この指数がゼロになったとしても、それが本当に「公平かつ価値のある医療」を意味するとは限らない——高所得層が高価値サービスを多く受け、低所得層が低価値サービスを多く受けていても、加重和としては偶然ゼロに近づいてしまう可能性があり、指数の中身を分解する手法がまだ存在しない。
もっとも、この3つの壁のうち第二・第三の壁は、指数を1本にまとめようとすること自体が原因だったのかもしれない。集中度指数と価値の重みを無理に合成せず、サービスをあらかじめ高価値群・低価値群に分けた上で、それぞれについて標準的なHI指数を別々に計算する——つまり と という2本の指数を報告する、という方法である。この方法なら、既に確立されたHI指数の計算法をそのまま使えるので「価値加重した必要利用量」という未定義の概念を発明する必要がなく、解釈も明快になる。もし が親富裕層的(高所得層が高価値医療を必要度以上に受けている)であるにもかかわらず が親貧困層的(低所得層が低価値医療を必要度以上に受けている)だとしたら、それこそが公平性と価値の両方が同時に壊れている状態を示す強い証拠になる。1本の数字に潰さない分、HI=0が所得と価値の相関を覆い隠すという第三の懸念も、2本のベクトルとして報告する限り自動的に解消される。実はこの発想は思いつきではない——公平性と価値をつなごうとする既存の試みを整理した際に見た通り、この分野自体が「集中度指数の分解分析を、必要度・非必要度の要因だけでなくサービスの種類や価値によっても行えるか」を、まだ誰も埋めていない未解決の課題として挙げている。ただし、この2本案にもまだ穴がある※訂正。低価値医療の「必要度」とは何か。「無症候の成人への不要な画像検査」を低価値と定義するなら、理想的な必要度はゼロである。全員の必要量がゼロなら、「実利用 − 必要度予測利用」という標準的HIのロジックが立たない。だから正確には と ではなく、高価値医療は必要度標準化したHI、低価値医療は低価値医療率の集中度指数(あるいは所得階層別の標準化率)、という別の道具になる。
そしてもっと大きな問題がある。分布だけでは、価値を測れない※追記。
高価値医療について、富裕層も貧困層も誰も受けていなければ、所得差は無いのでHIはゼロに近づく。制度としては最悪なのに、指標は「公平」と出る。逆に低価値医療を全員が大量に受けていても、CIはゼロに近い。公平だが、価値は最悪である。
「偏り」と「水準」は、別の次元である。だから最小限、四つ要る。
| 水準 | 所得分布 | |
|---|---|---|
| 高価値医療 | 高価値医療の利用率・カバレッジ | 必要度調整済みHI |
| 低価値医療 | 低価値医療率 | CI等の分布指標 |
分類基準についても、楽観できない※訂正。OECDのHealth at a GlanceやChoosing Wiselyのリストは使えるが、サービスコードだけで高価値・低価値を固定分類することはできない。VBIDが言う clinical nuance のとおり、同じ検査でも誰が・どんな病態で・いつ・どこで受けるかで価値は変わる。Choosing Wisely の勧告も通常は「特定の臨床状況では行わない」という形をとる。診断・年齢・既往・時期を含む臨床的適応のアルゴリズムが要る。
2本の指数がとりうる組み合わせを整理すると、次のようになる。
| が親富裕層的(プラス)——低価値医療も高所得層に偏る | が親貧困層的(マイナス)——低価値医療は低所得層に偏る | |
|---|---|---|
| が親富裕層的(プラス)——高価値医療が高所得層に偏る | ① 両方とも高所得層に偏る:低所得層は価値の高低を問わず医療全体へのアクセスが不足している可能性——価値の問題というより、アクセスそのものの問題 | ② 公平性と価値の両方が破綻:低所得層は必要な高価値医療を受けられておらず、その一方で低価値医療は低所得層に偏っている——最も懸念すべきパターン |
| が親貧困層的(マイナス)——高価値医療が低所得層に偏る | ③ 低所得層が高価値医療を多く受け、低価値医療は高所得層に偏る——ただしこれを「最も望ましい」と呼ぶことはできない※訂正。水平的公平性の定義ではHI=0が公平であり、必要度を完全に調整した後でも低所得層が多く受けているなら、それは horizontal equity ではない。それを望ましいと考えるなら、それは vertical equity や prioritarianism という別の価値判断である。また低価値医療は、富裕層が受けても資源の浪費である。理想は「高価値医療は必要度調整後のHIがゼロ近傍で、かつ利用水準が十分高い」「低価値医療は全所得層で低水準」である | ④ 両方とも低所得層に偏る:必要度調整が不十分な高頻度受診(高齢・多疾患などの残差)を反映している可能性があり、原因の追加分解が必要 |
このマトリックスの利点は、①と④が示すように「両方とも同じ方向に偏っている」場合を、②が示す「価値の高低で偏りの方向が逆転している」場合ときちんと区別できることにある。1本に合成した指数では、②のような最も深刻なパターンも、①のような単なるアクセス不足も、同じような数値に丸められてしまいかねない。
日本の状況を見ると、この統合の困難さがより具体的な形で立ち現れる。日本は、公平性側の測定インフラ(HI指数の蓄積)も、価値側の制度インフラ(費用対効果評価制度への公平性の組み込み)も、どちらも半分しか存在しない。数少ない国内のHI指数研究は、外来医療の不公平の方向についてすら一致しておらず、NDBという全国規模のデータがありながら、それを使ったHI指数の計算は行われていない。費用対効果評価制度は価値の側面(ICER)だけを扱い、公平性の側面は制度設計上そもそも視野に入っていない。高額療養費制度をめぐる最新の政策論争(オプジーボの試算が示す、症例による負担の非対称性)は、まさにこの「公平性と価値をどう両立させるか」という問題そのものだが、それは今のところ定性的な議論にとどまっている。
これは、医療費の増大が質の向上につながっているかを検証した回で見つけた発見と同じ構造をしている。あの記事では、医療費の増大が質の向上につながっているかを検証しようとして、そもそも施設単位のアウトカムを日本が公表していないという「測定インフラそのものがない」という結論に行き着いた。今回も同じである。公平性と価値を統合する指数を作れるかどうかを問う前に、その両方を単独で測るための基盤——全国規模のデータに基づく公平性指標と、公平性を考慮した価値評価の仕組み——がまだ整っていない。前提を疑うシリーズがこれまで繰り返し発見してきたのは、対立する二つの立場のどちらが正しいかという答えではなく、その答えを出すための物差しそのものが、しばしばまだ存在しないという事実なのかもしれない。
最後に、この記事の答えを一文で書いておく※追記。
公平性と価値を一つの数字で測ろうとして、うまくいかなかった。だが躓いたのは、重みの決め方ではなかった。
「どれだけ良い医療が行われているか」という水準と、「それが誰に届いているか」という分布を、一つの数字に潰してはいけない。
高価値医療を誰も受けていなければ、所得差が無いのでHIはゼロになる。低価値医療を全員が受けていても、CIはゼロになる。単一指数にすると、この二次元が必ず潰れる。
そして公平性そのものをさらに詰めれば、水平的公平性、垂直的公平性、社会経済的な分布、健康の機会費用——最終的にはDCEAの問題になる。究極の一つの指標という発想が、最初から向きを間違えていた、というのがこの記事の結論である。
訂正 CORRECTIONS
公開後に直したこと。本文は直したうえで、何をどう変えたかをここに残している。本文中の※ が、直した箇所を指す。
- 訂正日本の費用対効果評価制度に「公平性の視点がそもそも組み込まれていない」「基盤が半分ずつ欠けている」と書いていたのを訂正した2026-09-01 · cea-kouhei日本にはICER・QALY・公的分析・価格調整を含む制度があり、希少疾患・小児・抗がん剤への配慮も組み込まれている。欠けているのは制度そのものではなく、所得等の社会経済属性に応じた分布的な公平性の重みづけやDCEA型の社会厚生関数が制度化されていないという一点である
- 訂正高価値群・低価値群の分類について、Choosing Wisely等のリストを借りれば現実的だと書いていたのを訂正した2026-09-01 · choosing-wiselyVBIDの clinical nuance が示すとおり、同じサービスでも誰が・どんな病態で・いつ・どこで受けるかで価値が変わる。Choosing Wisely の勧告も通常は特定の臨床状況では行わないという形をとる。サービスコードだけで固定分類することはできず、診断・年齢・既往・時期を含む臨床的適応のアルゴリズムが要る
- 追記米国 Medicare Advantage の VBIDモデルが2025年末で終了したことを追記した2026-09-01 · cms-vbidMedicare Trust Fund への追加コスト(2021年約23億ドル、2022年約22億ドル)が理由である。VBIDという概念そのものの失敗を意味するわけではないが、初期の『利用が増えた』という評価だけで止めるのは公平でないため追記した
- 訂正「公平性と価値を橋渡しする共有の測定枠組みはまだ存在しない」を撤回した。分布考慮型費用対効果分析(DCEA)がまさにそれにあたる2026-09-01 · dceaDCEAは総健康便益・費用と機会費用・社会集団間の健康の分布・不平等回避度を同時に扱い、Equally Distributed Equivalent という単一の社会厚生指標へ落とし込む。近年は value-based pricing に公平性を組み込む方法論への拡張も出ている。新規性の主張を『Wagstaff型の所得関連HI指数と、サービス単位のVBID的な価値分類とを直接組み合わせた指標は今回の検索では確認できなかった』まで狭めた
- 訂正価値の重みに負の値を許す設計を、集中度指数と組み合わせて提示していたのを訂正した2026-09-01 · fu-no-omomi相対集中度指数は平均値で規格化するため、価値加重和の平均がゼロ近傍や負になると解釈が壊れる。高価値に+2・低価値に−2を与えるような net value score を通常のCIに入れることはできない。価値を正負で統合して社会全体の厚生として評価する枠組みは既にDCEAが持っている旨を明示した
- 訂正高価値群・低価値群それぞれについて標準的なHI指数を計算する2本案について、低価値医療の必要度が定義できない問題を追記した2026-09-01 · hi-low低価値医療の理想的な必要度はゼロであり、『実利用 − 必要度予測利用』という標準的HIのロジックが立たない。高価値医療は必要度標準化したHI、低価値医療は低価値医療率の集中度指数(あるいは所得階層別の標準化率)という別の道具になる
- 追記結論の節を追加した。躓いたのは重みの決め方ではなく、水準と分布を一つの数字に潰そうとしたことだった2026-09-01 · ketsuron高価値医療を誰も受けていなければHIはゼロになり、低価値医療を全員が受けていてもCIはゼロになる。単一指数にするとこの二次元が必ず潰れる。公平性をさらに詰めれば水平的公平性・垂直的公平性・社会経済的分布・健康の機会費用となり、最終的にはDCEAの問題になる
- 追記高額療養費の所得区分の粗さについての指摘が、実際に制度改正として実装されたことを追記した2026-09-01 · kougaku-saibunka2026年8月から年単位の上限額が新設され、2027年8月からは所得区分が約370〜510万円・約510〜650万円・約650〜770万円へ細分化される
- 訂正2×2マトリックスの③(高価値医療が低所得層に偏り、低価値医療が高所得層に偏る)を「最も望ましいパターン」としていたのを訂正した2026-09-01 · matrix水平的公平性の定義ではHI=0が公平であり、必要度を完全に調整した後でも低所得層が多く受けているなら horizontal equity ではない。それを望ましいとするのは vertical equity や prioritarianism という別の価値判断である。また低価値医療は富裕層が受けても資源の浪費である。理想は『高価値医療は必要度調整後のHIがゼロ近傍かつ利用水準が十分高い』『低価値医療は全所得層で低水準』である
- 訂正NDBを用いた公平性測定の基盤が無いかのように書いていたのを訂正した2026-09-01 · ndb-shotokuNDBには2022年3月診療分以降、患者の居住地情報と所得階層情報が付与されている。基盤が無いのではなく、基盤はでき始めたがそれをHIへ変換した研究の蓄積がまだ乏しい、が正確である
- 訂正「日本の医療利用が所得的にどちらの方向に偏っているかに国内の実証研究は明確な答えを出せていない」を撤回した2026-09-01 · oshio-20252025年12月に Oshio, Ping, Honda による全国分析が出ている。1986年から2022年の全国調査13波、20歳以上827,168人の反復横断データを用い、要旨は『Horizontal inequity remained limited throughout the study period after adjusting for healthcare needs』とし、税引前所得の富裕層寄りの寄与は穏やかで、国民健康保険と高齢者医療制度の貧困層寄りの寄与に相殺されてきたと結論している。なおこの論文は姉妹回である自己負担の記事で既に出典に挙げていたが、そこで拾ったのは背景の一文だけで主結果を使っていなかった。引いておきながら読み落としていた
- 訂正提案した式 HI_value = CI(V/Need) をHI指数の拡張として提示していたのを訂正した。この式は標準的なWagstaff型HIになっていない2026-09-01 · shiki標準的なHIは実利用の集中度指数から必要度の集中度指数を引くか、間接標準化した利用量について集中度指数を計算するもので、必要度で割るものではない。比にすると必要度の小さい人で値が発散し、ゼロ近傍で不安定になり、標準的HIとの比較可能性も失われる。試案として提示し、方法論上の問題から採用しないという位置づけに改めた
- 追記分布指標だけでは価値を測れないという論点を追加した。これが本稿の中心的な結論になった2026-09-01 · suijun-bunpu高価値医療を誰も受けていなければ所得差が無いのでHIはゼロに近づき、低価値医療を全員が大量に受けていてもCIはゼロに近い。偏りと水準は別の次元であり、最小限、高価値医療の利用水準と必要度調整済みHI、低価値医療率とその分布指標の四つが要る
- 訂正「公平性の測定と価値に基づく設計は別々の研究者集団によって発展してきた」という整理を訂正した2026-09-01 · vbid-sesCMSのVBIDモデルは2020年以降、対象の選定条件に社会経済的地位を使えるようになり、2025年には地域の剥奪指標を用いたターゲティングと Health Equity Plan を導入している。実装の側では既に接近している。確認できないのは、Wagstaff型HIで公平性を定量化しVBIDの価値指標と統合するところである
- 訂正垂直的公平性を「所得階層間の格差」と説明していたのを訂正した2026-09-01 · vertical引用元の論文自身の定義では、horizontal equity は同じ必要度なら同じ医療、vertical equity は必要度の大きい人ほどそれに応じて多く医療を受けること、である。所得階層間の格差のことではない
出典 SOURCES
- 1Measuring and Testing for Inequity in the Delivery of Health CareJournal of Human Resources · 2000 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 需要標準化と集中度指数を組み合わせた回帰ベースの水平的公平性指数(HI指数)の方法論を確立した基礎論文。所得に関わらず同じ医療上の必要度(need)を持つ人が同じだけ医療を利用しているかを測定する枠組みを提示した
- 2Conindex: Estimation of Concentration IndicesThe Stata Journal · 2016 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 集中度指数を推定するStataコマンド「conindex」を提供する論文(著者はO'Donnell、O'Neill、Van Ourti、Walshの4名)。二値変数の集中度指数に対するErreygers・Wagstaff補正を含め点推定値と標準誤差を算出できることを示し、集中度指数が所得以外の任意のランキング変数に対しても任意の医療変数を指数化できる、数学的に汎用性の高い手法であることを確認している
- 3Measuring horizontal inequity in healthcare utilisation: a review of methodological developments and debatesThe European Journal of Health Economics · 2020 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: HI指数の測定手法をめぐる方法論的な論点(医療変数の測定尺度、社会経済的地位指標の選び方、二値アウトカムにおける集中度指数の上限・下限の扱いなど)を包括的にレビューしている
- 4Measurement of horizontal inequity in health care utilisation using European panel dataJournal of Health Economics · 2009 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: パネルデータを用いて需要標準化に時間不変の観察されない異質性を組み込む手法は、横断データによる推定よりもかなり大きい親富裕層的な不公平を明らかにすることを示した
- 5Measuring Inequalities in Access to Health Care: A Review of the Indices?欧州委員会 Health and Living Conditions Network, European Observatory on the Social Situation and Demography · 2007 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 医療アクセスの不平等を測定する各種指数(利用度/必要度比、水平的公平性指数の手法を含む)を整理した報告書。DOIを持たない政策文書であり、査読付き学術誌論文ではない点に留意
- 6Methods for measuring horizontal equity in health resource allocation: a comparative studyHealth Economics Review · 2014 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 集中度指数は所得に関連した不公平のみを捉える指標であり、それ以外の要因による不公平や、医療サービス提供そのものにおける不公平は捉えられないという限界を指摘している
- 7Value-Based Insurance DesignHealth Affairs · 2007 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 一律の自己負担は過少利用と過剰利用の両方を招きうるとし、臨床的便益が費用を上回るサービスには利用を促し、便益が費用に見合わないサービスには利用を抑制するよう自己負担を臨床的価値に応じて差別化する「Value-Based Insurance Design(VBID)」の基礎概念を提示した
- 8Value-Based Insurance Design Improves Medication Adherence Without An Increase In Total Health Care SpendingHealth Affairs · 2018 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: VBIDプログラムに関する系統的レビューで、対象研究間で服薬アドヒアランスが0.1〜14.3パーセントポイント改善し、薬剤費の増加分は入院回避など他の医療費削減で相殺され、総医療費の増加は見られなかった
- 9Value-based insurance design: quality improvement but no cost savingsHealth Affairs · 2013 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: VBIDプログラムに関する系統的レビューで、アドヒアランス改善との一貫した関連は認められたが、総医療費の有意な削減は示されなかった
- 10How to make value-based health insurance designs more effective? A systematic review and meta-analysisThe European Journal of Health Economics · 2019 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: VBID施策のメタ分析で服薬アドヒアランスへの有意な改善効果を確認し、心血管疾患治療薬で最大の効果(4.05パーセントポイント、p<0.0001)を示した。また自己負担を完全に免除する設計は部分的な軽減にとどまる設計より2倍以上効果が大きかった(4.52対1.81パーセントポイント)
- 11The Effect of the Medicare Advantage Value-Based Insurance Design Model Test on Utilization in 2017American Journal of Health Promotion · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 米国メディケア・アドバンテージのVBIDモデル実証事業が、対象とした18の高価値サービスのうち10について利用を増加させ、プライマリケア受診・専門医受診・処方薬充填が対象受給者全体で全般的に増加したことを示した
- 12Value-Based Insurance Design: Clinically Nuanced Consumer Cost Sharing to Increase the Use of High-Value MedicationsJournal of Health Politics, Policy and Law · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 自己負担の引き上げは経済的に脆弱な層(低所得者、有色人種、慢性疾患患者)における健康格差を悪化させると指摘し、臨床的便益に基づく自己負担設計(VBID)を代替案として提案している
- 13Incorporating Equity Concerns in Cost-Effectiveness Analyses: A Systematic Literature ReviewPharmacoEconomics · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 費用対効果分析(CEA)に公平性の視点を組み込む手法群をレビューし、公平性加重法(equity-based weighting)が増分費用効果比の調整を通じて公平性を考慮できること、分配的費用対効果分析(DCEA)が社会厚生関数を通じて公平性を表現することを整理している
- 14Health Equity Considerations in Cost-Effectiveness Analysis: Insights from an Umbrella ReviewClinicoEconomics and Outcomes Research · 2024 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 公平性をどの指標に対してどう重み付けするかについて、文献間でコンセンサスが得られていないことを指摘している
- 15What Is Value in Health and Healthcare? A Systematic Literature Review of Value Assessment FrameworksValue in Health · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 医療における「価値」を評価する57のフレームワークを対象とした系統的レビューで、価値の属性は9つのカテゴリーに分類され、そのうち29のフレームワークが何らかの重み付け手法を用い、さらにそのうち19が多基準意思決定分析(MCDA)を用いていたことを示し、価値の定義・重み付け手法にコンセンサスが存在しないことを明らかにした
- 16Eliciting Trade-Offs Between Equity and Efficiency: A Methodological Scoping ReviewValue in Health · 2023 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 医療資源配分における公平性と効率性のトレードオフを引き出す手法についてのスコーピングレビュー
- 17Implementing value-based healthcare: a scoping review of key elements, outcomes, and challenges for sustainable healthcare systemsFrontiers in Public Health · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 「バリューベース・ヘルスケア(VBHC)」という医療提供・支払いモデル全体に関わる広い概念(支払い方式、アウトカム測定、組織導入の障壁等)を対象としたスコーピングレビューであり、自己負担設計に特化したVBID(Value-Based Insurance Design)そのものを扱っているわけではない
- 18Did the COVID-19 pandemic reshape equity in healthcare use in Europe?Social Science & Medicine · 2024 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 欧州18カ国のデータ(SHARE調査)を用い、新型コロナ流行前後の医療利用における水平的・垂直的公平性を検証し、水平的公平性には有意な変化がなかったが、垂直的公平性は有意に悪化したと報告している(集中度指数ではなく「fairness gap」という分散に基づく指標を用いている点に留意)
- 19Distributional Cost-Effectiveness Analysis: A TutorialMedical Decision Making (Asaria M, Griffin S, Cookson R) · 2016 · accessed 2026-09-01裏付けた主張: 分布考慮型費用対効果分析(DCEA)の解説論文。総健康便益、費用と機会費用、社会集団間の健康の分布、不平等回避度を同時に扱い、Equally Distributed Equivalent(EDE)という単一の社会厚生指標へ落とし込む手法を提示する。すなわち公平性と価値を定量的に統合する枠組みは既に存在する
- 20Equity in healthcare utilization in Canada's publicly funded health system: 2000–2014The European Journal of Health Economics · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: カナダの公的医療制度において、一般医・専門医への受診は親富裕層的な不公平を示す一方、入院医療は親貧困層的な不公平を示すという、サービス種別で方向が逆転するパターンが全国・州・都市部/農村部で一貫して見られた
- 21Influencing factors of inequity in health services utilization among the elderly in ChinaInternational Journal for Equity in Health · 2018 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 中国の高齢者を対象とした調査で、医療サービスの利用確率・頻度の両方に強い親富裕層的な不公平が見られ、分解分析では世帯消費水準の格差が最大の寄与要因であった
- 22Horizontal inequity trends of health care utilization in rural China after the medicine and healthcare system reform: based on longitudinal data from 2010 to 2018International Journal for Equity in Health · 2023 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 中国農村部では2010〜2018年の集中度指数は全年で親貧困層的(必要度の高い低所得層の医療需要を反映)だったが、外来医療の水平的公平性指数は2012年のみ一時的にプラス(親富裕層的)に転じ、それ以外の年(2010、2014、2016、2018年)はマイナス(親貧困層的)のままだった
- 23Need and inequality in the use of health care services in a fragmented and decentralized health system: evidence for ArgentinaInternational Journal for Equity in Health · 2020 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: アルゼンチンの医療利用について、Erreygers集中度指数0.1223(親富裕層的)、水平的公平性指数(HI指数)0.1296を報告し、必要度を揃えてもなお高所得層の方が医療サービスを多く利用していることを示した(教育水準や社会保障加入状況といった非必要度要因がHI指数を押し上げていた)
- 24Assessing horizontal equity in health care utilization in Iran: a decomposition analysisBMC Public Health · 2020 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: イランのデータで、外来医療は親富裕層的な水平的不公平(HI指数=0.039〈農村部〉、0.008〈非農村部〉)を示した一方、入院医療は親貧困層的な不公平(HI指数=−0.068〈農村部〉、−0.090〈非農村部〉)を示し、外来と入院で不公平の方向が逆転していた
- 25More or less equal? Trends in horizontal equity in mental health care utilization in Stockholm county, Sweden (2006–2022). Repeated survey-registry linked studiesInternational Journal for Equity in Health · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: スウェーデン・ストックホルム県の精神医療利用における水平的公平性指数(HI指数)は2006年度(−0.057)から2014/15年度(−0.130)にかけて親貧困層的な傾向を強めたが、新型コロナ流行期の2021/22年度には親貧困層的傾向が縮小し、非北欧系移民においては有意に親富裕層的(HI=0.100)に転じた
- 26Fairness of the Distribution of Public Medical and Health ResourcesFrontiers in Public Health · 2021 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 中国のある省における2016〜2020年の時系列データを用い、ジニ係数・タイル指数・ローレンツ曲線により公的医療・保健資源配分の公平性を実証的に分析した研究
- 27Equity and efficiency of health care resource allocation in Jiangsu Province, ChinaInternational Journal for Equity in Health · 2020 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 中国江蘇省の医療資源配分について、公平性と効率性の両方を同時に評価した研究
- 28Access to Health Care and Horizontal Equity医療と社会 · 2012 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 東京圏の25〜50歳住民3,378人への調査データに基づき、日本国内で需要標準化した集中度指数(CI)と水平的公平性指数(HI)を算出した数少ない研究の一つ。外来医療は親富裕層的(CI=0.038、HI=0.043)、特に定期的な外来受診はより強く親富裕層的(CI=0.053、HI=0.063)であり、受診控えは低所得層に集中していた(CI=−0.064)一方、入院医療の粗い利用は低所得層に偏っていたが必要度調整後のHIはわずかに親富裕層的だった(HI=0.011)
- 29公立病院に対する繰入金と医療サービスの水平的公平性医療経済研究(医療経済研究機構) · 2007 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 市区町村の公立病院データと住民の健康状態を突き合わせた分析で、外来医療の利用は低所得層に有利(親貧困層的)だった一方、公立病院への一般会計繰入金は高所得層の多い地域に偏って配分されており、脳血管疾患の入院医療についてはほぼ完全に水平的公平性が達成されていたと報告している
- 30Income-related inequality and horizontal inequity in healthcare utilization under population aging and labor market changes in JapanInternational Journal for Equity in Health 25:8 (Oshio T, Ping R, Honda A) · 2025 · accessed 2026-09-01裏付けた主張: 1986年から2022年までの全国調査13波、20歳以上827,168人の反復横断データを用いて、医療利用の集中度指数と水平的不公平(HI)の推移を分析した。要旨は「Horizontal inequity remained limited throughout the study period after adjusting for healthcare needs; that is, actual healthcare use was closely aligned with healthcare needs」とし、「Although pretax income consistently contributed to an unequal distribution of healthcare utilization in favor of the rich, the impact was modest and was mitigated by the growing pro-poor contributions of residence-based health insurance plans and health insurance programs for older adults」と結論する。すなわち税引前所得は一貫して富裕層寄りの寄与を持つが、その効果は穏やかで、国民健康保険と高齢者医療制度の貧困層寄りの寄与によって相殺されてきた
- 31費用対効果評価制度の見直しに関する検討(その1)厚生労働省 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会 · 2023 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 日本の費用対効果評価制度に関する公式資料では、「公平性」という語は一貫して品目間で同一の分析ガイドラインを適用するという手続き上の公平性を指しており、所得や必要度に基づく分配的な公平性への言及は見られない。希少疾患・小児・抗がん剤などに対する配慮は疾患区分に基づくものであり、患者の所得に基づく公平性加重の仕組みは制度に組み込まれていない
- 32我が国における医療技術評価——現状と制度化に向けた課題国立国会図書館 調査と情報(イシュー・ブリーフ) · 2019 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 欧州・オーストラリアなど諸外国がHTA(医療技術評価)導入の根拠として「公正・公平な医療資源の配分」を挙げてきた経緯を整理しているが、これは他国の制度導入の理由付けとして紹介されているのであり、日本自身の費用対効果評価制度に組み込まれた仕組みとして記述されているわけではない
- 33高額療養費制度を巡る政策のあり方——必要な医療へのアクセス確保と非効率な医療の抑制の両立に向けて日本総合研究所 リサーチ・レポート · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 高額療養費制度の政策的課題を「①必要な医療へのアクセス確保」(公平性)と「②非効率な医療の抑制」(価値)という2つの目的の両立として明示的に整理し、費用対効果に基づく診療ガイドラインで低価値な医薬品の給付を抑制すること、年齢・診療形態に基づく自己負担区分を廃止し負担能力に基づく区分に一本化することを提言している
- 34高額療養費制度の見直しについて厚生労働省保険局(社会保障審議会医療保険部会・高額療養費制度の在り方に関する専門委員会) · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 現行の所得区分が粗く、年収約370万円の世帯と約770万円の世帯が同一区分に含まれるなど、区分をまたぐと自己負担上限額がほぼ倍になる急激な変化が生じることを、厚生労働省自身の検討資料が指摘している
- 35高額療養費は「長期療養患者、高額医薬品使用患者」で大きな恩恵受けるが、低所得者は現行制度下でも「重い負担」——高額療養費専門委員会GemMed(厚生労働省・高額療養費専門委員会の審議報告) · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 専門委員会が示した試算で、年収約550万円・胃がんでオプジーボ使用の50歳男性は高額療養費制度により年間医療費が148.8万円から48.6万円へ(67.3%減)軽減される一方、年収約200万円・再発乳がんの40歳女性は年間44.7万円を負担し、これは世帯の可処分所得の52.8%に相当してWHOの定める「破局的医療費」の閾値(40%)を上回っていたことを示した
- 36医療介護負担による家計影響と負担公平性:2014年全国消費実態調査個票の分析結果医療と社会 · 2021 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 2014年全国消費実態調査の個票データを用い、高齢者・介護世帯の約17%が破局的な医療・介護費負担を経験していたと推計し、医療の自己負担単体の破局的影響は限定的で累進的な税制を通じて負担の公平性はある程度確保されているとしつつ、自己負担と社会保険料を合わせた負担の逆進性が強まりつつあると警告している
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