前提を疑う01 医療費と財源/JAPAN
『静かな持続可能性の危機』は、本当だったのか
本サイトの創刊記事は、日本の医療制度が「静かな持続可能性の危機」に直面していると書き出した。その根拠として引用した2本の論文を一次資料まで遡って読み直し、これまでの「前提を疑う」シリーズが明らかにしてきたこと、そして原著者自身による15年後の再評価と突き合わせる。シリーズの中間振り返り。
ダイジェスト解説 VIDEO
本サイトの創刊記事は、こう書き出した。「日本の医療制度は今、高齢化・医療費増大・医師偏在という複合的な圧力の中で、静かな持続可能性の危機に直面している」。この一文は、2本の英語論文を根拠として引用していた。そのうち1本については、当時すでに正直な注記を残していた——「具体的な数値はNEJM側では確認できず」。この注記を残したまま、シリーズは②で医療費と質の関係を、③で高齢化が本当に「主犯」かを検証してきた。5本を経た今、原点に戻って、この2本の論文そのものを一次資料まで遡って読み直す。「前提を疑う」シリーズの中間振り返りとして。
エビデンス整理
Reich and Shibuya(2015, NEJM)を、実際に読む
まず、注記付きだった方から確認する。この論文はNEJMの「Perspective」欄に掲載された論説記事であり、原著研究ではない。参考文献はわずか5件、本文は3000〜3500語程度で、日本の国民皆保険の歴史、公平性達成の内容、費用増大、医療の質、政府の政策対応、著者らの提言という構成を取る1。
「危機」に相当する語(crises)が登場するのは本文中一箇所のみで、しかもそれは著者自身の主張としてではなく、「政府は高齢化と財政持続可能性という複合的な危機を強く認識している」という、政府の認識を描写する文脈で使われている。財政的圧力を示す具体的な数値も一箇所しかない——「対策を取らなければ、医療費は現状のGDP比8%から2025年までに約11%に増加しうる」という記述である。先に断っておくべきことがある※追記。この2論文は、財政的持続可能性への懸念そのものは著者自身が明示していた。2011年Lancet論文は日本の国民皆保険の財政的持続可能性が人口・経済・政治要因によって脅かされていると述べ、2015年NEJM論文も冒頭で serious fiscal pressure に直面しているとしている。「論文が財政問題を診断していなかった」わけではない。問題は、その懸念を支える定量的な分析が限られていたこと、そして本稿の創刊記事が、そこにある定性的な pressure / threat を「静かな持続可能性の危機」という一段強い表現へ翻訳していたことである。
そのうえで、唯一の定量的な数字の出典を辿ると、査読論文でも政府の公式長期推計そのものでもなく、経済産業省・厚生労働省の推計等を基礎に McKinsey Global Institute が組み立てた二次的なシナリオ分析に行き着く※訂正2。論文中の他の数値(1人当たり医療費、高齢化率の推移、保険者の乱立数など)は制度の構造・現状を描写するものであり、将来の財政悪化そのものを定量的に裏づけるものではない。著者らの提言は、“Japan Vision: Health Care 2035”という政府有識者会議の報告書を支持し、インプットからアウトカムへ、量から質へという転換を訴える内容だった。
Shibuya et al.(2011, Lancet)を、実際に読む
もう1本の根拠論文は、2011年にLancet誌が組んだ「日本特集(Universal Health Care at 50 years)」全6本の締めくくりとなる展望論文である。この特集はゲイツ財団や厚労省の支援も受けた、国際的に影響力のあるシリーズだった。しかし実際に読むと、財政的脅威に充てられた紙幅は全体の一部(1.5ページ程度)にとどまり、そのうちの多くも東日本大震災後の政治的混乱についての記述で占められている。財政に関して明示された具体的な数値は、「65歳以上人口比率が1990年の12%から2010年には23%へ上昇した」「国の債務がGDPの2倍に達した」という2つのみで、将来年次を明示した医療費予測は一切含まれていない3。
構成としても、日本の皆保険達成の歴史を描く記述(約2ページ)と、4つの改革提言を詳述する記述(約3ページ)が紙幅の大半を占めており、財政の定量分析よりも政策提言に重心を置いた論文だと言える。「危機」という語自体は本文中に繰り返し登場するが、そのほとんどは医療財政ではなく2011年3月の地震・津波・原発事故を指して使われている——「crisis」という英単語の語源が「危険」と「機会」を意味する漢字から成る、という一節まで挿入し、震災を改革の好機として位置づける修辞として使われていた。財政の定量的な裏づけとして機能していたのは、同じ特集に収録された別の論文で、術後死亡率は低水準だが慢性疾患ケアの質には課題がありうると指摘したデータ表の方であり4、これは2015年のNEJM論文のデータ表にも再利用されている。
つまり2本の根拠論文のうち、財政的「危機」を最も直接的に定量化していたはずの数字(2025年にGDP比11%)は民間コンサルティング会社の推計であり、より学術的な方の論文(2011年Lancet)は具体的な将来予測をそもそも含んでいなかった。
「危機」は、何を指しているのか——3つの異なるレベル
ここで、「危機」という語の使われ方そのものを分解してみる。政府文書は「危機」を避け、現場団体は「危機」を掲げる——これは同じ事実についての意見の対立というより、3つの異なる(しかし互いに連鎖しうる)対象に、同じ一語が使われていることの表れに見える。
第一のレベルは、国家財政の持続可能性というマクロな問いである。2025年11月時点の財務省財政制度等審議会の資料を全文検索すると、「危機」という語は一度も出現しない。代わりに「構造的」が3回、「持続可能」が7回使われており、「医療・介護産業の構造的見直し」という見出しのもとで議論が組み立てられている5。
第二のレベルは、個別医療機関の経営という、よりミクロな問いである。この水準では、赤字の広がりは複数の複数の調査※訂正で一貫して確認できる。全国保険医団体連合会は、国立大学病院42病院中29病院(69%)が2024年度経常赤字で合計285億円の損失(法人化後最大)、全国自治体病院協議会加盟病院の86%が経常赤字だったと報告している6。総務省の集計でも公立病院の83.3%が経常赤字で赤字総額は前年度のほぼ2倍の3,952億円に達し7、四病院団体協議会の調査では医業赤字病院の割合が74.6%、経常赤字が65.6%に悪化したと報告されている8。日本病院会・全日本病院協会の調査でも赤字病院は61.2%だった9。病院の種類・調査主体を問わず、6割から8割台という水準で一致している。
この赤字の原因は、単なる主張ではなく具体的な数字で裏づけられている。四病協の調査では、医業収益が+2.8%増えた一方、医業費用は+3.5%(電気代+4.8%、ガス代+11.8%)増加し、コスト増が収益増を上回ったと報告されている8。ところが同じ時期の令和6年度診療報酬改定は、薬価引き下げを含めるとネットで▲0.12%、「①〜③以外の改定分」は+0.46%※訂正にとどまっていた10。中医協自身の資料でも、病院の100床当たり事業収益は+10.3%増えたが事業費用はそれを上回る+14.7%増加したと報告されており、委員から「コスト増加が診療報酬に反映しきれていないことが危機的な経営状況の原因である」という発言が記録されている11。日本医師会と主要な病院団体7団体は2025年3月、「診療報酬は公定価格であるが、物価・賃金の上昇に対応して上がっていない」と明言する合同声明を出し、社会保障予算を「高齢化による増加分」に抑えるという財務省の予算編成ルールの廃止を求めている12。つまり、第一のレベル(マクロな財政抑制)を実現する主な手段である診療報酬の抑制が、第二のレベル(個別医療機関の経営難)を生む一因になっている、という因果の連鎖が、双方の当事者によってほぼ同じ言葉で説明されている。財政審の資料自身も、この個別機関レベルの窮状を否定してはいない——「個々の医療機関においては、賃金や物価の上昇により、必要な医療提供に伴う不可避的なコスト増に直面している場合もある」と明記している5。ただし財政審が導く結論は、診療報酬総額の底上げではなく、診療所から病院への再配分という、内部での調整である。
第三のレベルは、医療提供体制そのものの機能不全——実際の「医療崩壊」である。ここは、財務データほど一様ではない。すでに現実に起きている、地域からサービスが消える事例は、産科において特に鮮明である。新潟県のJA厚生連は、赤字解消の見込めない産科体制の縮小として村上総合病院の分娩取り扱いを2025年春に休止し、村上・岩船地域から出産施設がゼロになった13。鹿児島市のいまきいれ総合病院も、常勤産科医の確保見通しが立たないまま2025年8月から出産対応を休止している14。日本産婦人科医会の集計では、分娩取扱施設は2011年の2,378施設から2023年には1,766施設へ約25%減少し、全国約1,700市町村のうち約6割にあたる1,041市町村に産科施設が存在しない15。一方、同じ分娩休止でも都市部の大阪府済生会茨木病院のケースは、近隣施設への患者紹介を前提としており、地域からサービスそのものが消える農村部の事例とは性格が異なる16。
産科以外の領域では、状況はより仮定的である。全国保険医団体連合会の調査では、医療機関の約4割が2025年4月の新規採用で必要な看護師数を確保できず、「看護師不足がさらに進むと病棟閉鎖や病床削減が起こる」と警告しているが、これは現時点で実際に生じている病棟閉鎖の報告ではなく、将来のリスクとして述べられている点に注意が必要である17。医療機関の倒産・休廃業も2024年に過去最多を記録したが、その大半を占める診療所の休廃業は、経営者の高齢化・後継者不在(70歳以上の開業医が45.2%)が主因であり、必ずしも診療報酬とコスト上昇の板挟みという財政的要因だけで説明できるものではない18。
整理すると、こうなる※訂正。
| 何が言えるか | |
|---|---|
| ①制度への財政的圧力 | 強く確認できる。ただし「持続不能に達する」ことまでは示されていない——持続可能性は経済成長、負担の許容度、他の支出との優先順位、給付範囲にも依存する |
| ②医療機関の経営悪化 | 強く確認できる |
| ③提供機能の喪失 | 領域による |
①から②への因果まで示されている、と書いたのは強すぎた※訂正。診療報酬が賃金・物価の上昇に追随しにくいことは、政府側・医療団体側の双方から有力な寄与要因として指摘されている。だが病院の赤字には患者数、病床稼働率、人員配置、材料価格、症例構成、設備費なども効く。因果の経路が確認されたとまでは言えない。
第三のレベルについても、「産科・過疎地以外では恐れの段階」と一般化はできない※訂正。今回集めた資料の範囲で提供機能の喪失を最も明瞭に確認できたのが産科と地域医療だった、というのが正確なところである。救急・小児・精神などで局所的な縮小が起きていないことを、本稿は確かめていない。「医療崩壊の危機」という言葉が指しているのは、実はこの3つのうちどれなのかによって、その語の正確さは大きく変わる。
医療経済学者・二木立は、この種の言説の歴史そのものに注意を促している。1983年の厚生省保険局長による「医療費亡国論」、2015年の高額な抗がん剤をめぐる「オプジーボ亡国論」など、医療費が国家財政を破綻させるという破局的な言説は過去70年で繰り返し唱えられてきたが、それらの予測が文字通り実現したことはなかった、という指摘である19。この歴史は、上記の3つのレベルのうち、特に第一のレベル(マクロな財政破綻)について語られてきたものであり、第二・第三のレベルで今起きていることへの反証にはならない点には注意が必要である。
医療費の軌道を、最新データで確認する
言葉の選び方を離れて、実際の数字を見ておく。2018年に政府が作成し、その後の厚労省資料でも参照されている長期推計では※訂正、国民医療費(現状投影ベース)は2018年度45.3兆円(対GDP比8.0%)から2040年度には78.1〜80.2兆円(対GDP比9.9〜10.1%)へ増加するとされている20。直近の実績値を見ると、2023年度の国民医療費は48兆915億円と過去最高を更新した(前年度比+3.0%)が、対GDP比はむしろ8.08%へと前年度から0.15ポイント低下している——GDPの成長が医療費の伸びを上回った年だった、ということである21。2025年の国際的な文献レビューも、日本の医療費がGDP比11.0%(2019年)から11.5%(2023年)へ上昇し、2040年までに改革がなければ27兆円の財源不足が生じると推計しているが、用語としては「crisis」ではなく「insidious health system challenge(忍び寄る課題)」を選んでいる22。数字自体は増加傾向にあるが、年による変動もあり、単調に悪化し続けているわけではない。
なお本稿は当初、二次レビューを引いて「2019年11.0%から2023年11.5%へ」としていたが、これは採らない※訂正。OECDの Current expenditure on health では11%台だったのは2020年から2022年で、2023年の確定値は10.754%である。COVID期に一時上昇し、その後低下している。単調に悪化する軌道ではない。そして国民医療費ベース(2023年度8.08%)とOECD基準は定義が違い、同じ年でも3ポイント近く開く。
原著者自身による、15年後の再評価
そして、この振り返りの中で示唆的なのが、2026年に発表された論文である。ただし「筆頭著者だったShibuya本人が言葉を選び直した」と書いたのは正確でない※訂正——筆頭著者は Lisa Yamasaki で、Shibuya Kenji は25名の共著者の一人である(Crossrefで著者一覧を確認した)。約15年ぶりとなるLancetの日本特集として発表されたこの論文は、日本の医療制度を「危機」ではなく「制度的停滞(institutional stagnation)」という語で再評価し(なお本稿が併記していた「戦略的惰性(strategic inertia)」は、同じ特集の別論文の語である可能性があり、今回は原文で確認できなかった※訂正)、2040年までに人口の3人に1人が65歳以上になるという見通しのもと、抜本的な制度の再設計を提言している23。15年前に「危機」に近い語を使っていた(あるいは、少なくともそう受け取られる論文を書いていた)当の本人が、最新の論文では明確に異なる語を選んでいる。
②③がすでに示していたこと
この振り返りは、シリーズのこれまでの発見と無関係ではない。②では、日本に施設別の治療アウトカム指標がほぼ公開されておらず、医療費の水準が質に見合っているかどうかを検証する手段そのものが乏しいことを確認した24。③では、死亡までの期間を考慮すると高齢化だけを前提にした推計より医療・介護費の伸びは抑制されること25、厚労省自身の要因分解では高齢化の影響は年1.0〜1.8%で安定する一方、それ以外の要因(医療の高度化等)は0.2〜2.9%と変動が大きく複数年で高齢化を上回ること26、それでも財務省の予算編成では「高齢化による増加分」が2019年度以降毎年の明示的な基準として使われ続けていること27、そしてマクロレベルの分析ではむしろ高齢化の効果が頑健に有意という、ミクロレベルの知見と逆の結果を示す研究もあること28を確認した。
私見・考察
創刊記事を書いたとき、私は「危機」という言葉を、2本の権威ある論文に裏づけられた、ほぼ自明の前提として使った。しかし一次資料まで遡って読み直すと、その裏づけは思っていたよりも薄かった。財政悪化を最も直接的に数値化していたはずの「2025年にGDP比11%」という数字は、学術研究でも政府分析でもなく、民間コンサルティング会社のレポートに由来していた。より学術的な2011年のLancet論文の方は、そもそも具体的な将来予測を含んでおらず、実態としては定量分析というより政策提言のための状況説明だった。
だからといって、「危機ではなかった」と結論づけるのも早計だろう。国民医療費は実際に過去最高を更新し続けているし、2040年までに9.9〜10.1%のGDP比に達するという厚労省自身の見通しも存在する。むしろ検証を通じて見えてきたのは、「危機」という一語が、実は水準の異なる3つの現象——①国家財政の持続可能性、②個別医療機関の経営難、③医療提供体制そのものの機能不全——を無差別に指すために使われてきた、ということだった。この3段階の整理は、今回参照したどの文献にも単独では存在せず、複数の資料を突き合わせて初めて見えてきたものである。①と②は独立した複数の資料で強く裏づけられ、しかも診療報酬抑制という政策手段を介して①から②への因果の経路まで、政府側・医療団体側の双方の資料で確認できた。しかし③は、産科・過疎地域という特定の領域ではすでに現実だが、それ以外では今のところ「恐れ」の段階にとどまっている。二木立が指摘する「医療費亡国論」の70年の歴史は、主に①のレベルについて、破局的な言説が繰り返されながら文字通りには実現してこなかったことを示す有用な警句だが、②や③のレベルで今起きていることへの反証にはならない。
この振り返りの中で最も示唆的だったのは、当の原著者自身が15年後に選び直した言葉だった。Shibuya本人を含むチームが2026年に発表した論文は、「危機」ではなく「制度的停滞」「戦略的惰性」という語を選んでいる。これは、シリーズがこれまで繰り返し見つけてきたパターンと同じ形をしている——医療費の増大は質の向上を保証しない(②)、高齢化は医療領域と介護領域で異なる影響を持つ(③)、自己負担の設計は公平性と価値の両方を測る基盤を欠いている(⑥)。どれも「危機かそうでないか」という二項対立ではなく、領域ごとに異なる、測定の限界を伴う、より込み入った現実を指し示していた。「危機」という一語は、複雑な現実を一つの言葉に圧縮する力を持つが、その圧縮の過程で、まさにこのシリーズが検証してきたような細部——どの領域が実際に圧力を受けているのか、その圧力を測る手段が存在するのか——を覆い隠してしまう。
今後、本サイトで「危機」という語を使う際には、それが誰の視点からの、どの数字に基づく、そしてマクロな財政・個別機関の経営・現場の提供体制のうちどのレベルを指す主張なのかを明示することを、このシリーズ自身への教訓としたい。創刊記事の一文を検証したことで見えてきたのは、その一文が間違っていたということではなく、このサイトが他の記事で医療制度に対して行ってきたのと同じ精査を、自分自身の出発点にはまだ行っていなかった、という単純な事実だった。
最後に、この記事の答えを書き直しておく※訂正。
公開時は「創刊記事の『危機』は根拠が薄かった」という形で書いた。だが調べ直すと、そこまで単純ではない。
2011年と2015年の論文は、日本の医療制度の財政的持続可能性に明確な懸念を示していた。その意味で、創刊記事の問題意識そのものが無根拠だったわけではない。
問題は、その懸念を「危機」という一語へ圧縮したことだった。
①制度全体への財政的圧力、②個々の医療機関の経営可能性、③患者が実際に医療を受けられなくなる提供機能の喪失——この三つは、連鎖しうるが同じ現象ではない。
そして現在のエビデンスが最も強く示しているのは、医療費が直ちに国家財政を破綻させることではない。公定価格が賃金・物価の上昇に追いつきにくい環境で多くの医療機関の経営が悪化し、一部の地域と診療領域では、それが実際のサービス縮小へ転化している——という、より具体的な構造である。
「危機だったか」を問うより、「何が、どの水準で、どの程度持続不可能になりつつあるのか」を分けて測るべきだった。
訂正 CORRECTIONS
公開後に直したこと。本文は直したうえで、何をどう変えたかをここに残している。本文中の※ が、直した箇所を指す。
- 訂正病院の赤字調査を「独立した調査」と書いていたのを訂正した。2026-09-01 · byouin-chosa病院の赤字調査を「独立した調査」と書いていたのを訂正した。病院団体の会員は重なっており、対象・赤字の定義・調査時点も異なる。方向は一貫しているが独立とは言えない
- 訂正第三のレベルについて「産科・過疎地以外では恐れの段階にとどまっている」と一般化していたのを訂正した。2026-09-01 · daisan第三のレベルについて「産科・過疎地以外では恐れの段階にとどまっている」と一般化していたのを訂正した。今回集めた資料の範囲で提供機能の喪失を最も明瞭に確認できたのが産科と地域医療だった、が正確である。救急・小児・精神などで局所的な縮小が起きていないことは確かめていない
- 訂正「前者から後者への具体的な因果の経路まで示されている」を訂正した。2026-09-01 · inga「前者から後者への具体的な因果の経路まで示されている」を訂正した。診療報酬が賃金・物価の上昇に追随しにくいことは政府側・医療団体側の双方から有力な寄与要因として指摘されているが、病院の赤字には患者数・病床稼働率・人員配置・材料価格・症例構成・設備費なども効く。因果の経路が確認されたとまでは言えない
- 訂正令和6年度改定の+0.46%を「実質的な裁量分」と呼んでいたのを訂正した。2026-09-01 · kaitei-046令和6年度改定の+0.46%を「実質的な裁量分」と呼んでいたのを訂正した。厚生労働省の正式な区分は「①〜③以外の改定分」であり、この中には40歳未満の勤務医・事務職員等の賃上げ対応分も含まれる
- 追記2011年Lancet論文と2015年NEJM論文が財政的持続可能性への懸念を著者自身が明示していたことを追記した。2026-09-01 · kenen2011年Lancet論文と2015年NEJM論文が財政的持続可能性への懸念を著者自身が明示していたことを追記した。2011年論文は国民皆保険の財政的持続可能性が人口・経済・政治要因によって脅かされているとし、2015年論文も冒頭で serious fiscal pressure に直面しているとしている。論文が財政問題を診断していなかったわけではなく、問題はその懸念を支える定量分析が限られていたこと、そして創刊記事がそこにある定性的な pressure / threat を『静かな持続可能性の危機』という一段強い表現へ翻訳していたことである
- 訂正結論を書き直した。2026-09-01 · ketsuron結論を書き直した。「創刊記事の危機は根拠が薄かった」という自己批判は行き過ぎだった
- 訂正McKinseyの2025年約11%という推計を「学術研究でも政府の公式分析でもなくコンサルティングレポート」と書いていたのを訂正した。2026-09-01 · mckinseyMcKinseyの2025年約11%という推計を「学術研究でも政府の公式分析でもなくコンサルティングレポート」と書いていたのを訂正した。McKinsey Global Institute がゼロから作った数字ではなく、経済産業省・厚生労働省の推計等を基礎に組み立てた二次的なシナリオ分析である
- 訂正二次レビューを引いて日本の医療費対GDP比を「2019年11.0%から2023年11.5%へ」と書いていたのを訂正した。2026-09-01 · oecd-nenji二次レビューを引いて日本の医療費対GDP比を「2019年11.0%から2023年11.5%へ」と書いていたのを訂正した。OECDの Current expenditure on health では11%台だったのは2020年から2022年で、2023年の確定値は10.754%である。COVID期に一時上昇し、その後低下しており単調に悪化する軌道ではない。また国民医療費ベース(2023年度8.08%)とOECD基準は定義が違い、同じ年でも3ポイント近く開く
- 訂正三つのレベルの評価を表に整理し直した。2026-09-01 · sansou三つのレベルの評価を表に整理し直した。「第一のレベル(マクロな財政持続可能性)は強く裏づけられる」を「制度への財政的圧力は強く確認できるが、持続不能に達することまでは示されていない」に改めた。持続可能性は経済成長、負担の許容度、他の支出との優先順位、給付範囲にも依存する
- 訂正2026年論文の用語として「制度的停滞(institutional stagnation)」と「戦略的惰性(strategic inertia)」を併記していたが、後者は同じ特集の別論文の語である可能性があり、今回は原文で確認できなかった旨を明記した。2026-09-01 · senryaku2026年論文の用語として「制度的停滞(institutional stagnation)」と「戦略的惰性(strategic inertia)」を併記していたが、後者は同じ特集の別論文の語である可能性があり、今回は原文で確認できなかった旨を明記した
- 訂正2026年の論文を「2011年Lancet日本特集の筆頭著者だったShibuya Kenji本人が発表した」と書いていたのを訂正した。2026-09-01 · shibuya2026年の論文を「2011年Lancet日本特集の筆頭著者だったShibuya Kenji本人が発表した」と書いていたのを訂正した。Crossrefで著者一覧を確認したところ、筆頭著者は Lisa Yamasaki で、Shibuya Kenji は25名の共著者の一人である
- 訂正2040年度の医療費見通しを「厚労省の公式な長期見通しでは」と現在形で書いていたのを訂正した。2026-09-01 · suikei-20182040年度の医療費見通しを「厚労省の公式な長期見通しでは」と現在形で書いていたのを訂正した。2018年に政府が作成し、その後の厚労省資料でも参照されている長期推計であり、2026年時点の新しい情報で再推計されたものではない
出典 SOURCES
- 1The Future of Japan's Health System — Sustaining Good Health with Equity at Low CostNew England Journal of Medicine · 2015 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: NEJMの「Perspective」欄に掲載された短い論説記事(参考文献はわずか5件で、原著研究ではない)。「危機」という語は一度だけ登場するが、著者自身の主張としてではなく政府の認識を描写する文脈で使われている。財政持続可能性に関する具体的な数値は「医療費が現状のGDP比8%から2025年までに11%に達しうる」という一箇所のみで、しかもその出典は学術研究や政府分析ではなく、McKinsey Global Instituteのコンサルティングレポートである
- 2The future of Japan: Reigniting productivity and growthMcKinsey Global Institute · 2015 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: Reich and Shibuya (2015, NEJM)が日本の医療費財政の悪化を示す唯一の具体的な数値(GDP比8%から2025年までに11%へ)として引用している、コンサルティング会社によるレポート
- 3Future of Japan's system of good health at low cost with equity: beyond universal coverageThe Lancet · 2011 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 2011年Lancet誌「日本特集(Universal Health Care at 50 years)」全6本の締めくくりとなる展望論文。財政的脅威に充てられた紙幅はごく一部にとどまり、明示された数値は「65歳以上人口比率が1990年12%から2010年23%へ上昇」「国の債務がGDPの2倍」の2つのみで、将来年次を明示した支出予測は含まれていない。全体としては医療費の定量分析よりも、4つの改革提言に紙幅の大半を割く政策提言論文としての性格が強く、「危機」という語も財政situationよりもっぱら2011年3月の震災・原発事故を指して使われている
- 4Cost containment and quality of care in Japan: is there a trade-off?The Lancet · 2011 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 同じ2011年Lancet日本特集の1本で、Reich and Shibuya (2015)のデータ表の主要な出典としても使われている。術後死亡率は低水準だが、プライマリケア・慢性疾患ケアの質には課題がありうると指摘した
- 5社会保障①財務省財政制度等審議会財政制度分科会 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 2025年11月時点の財政審資料を全文検索すると、「危機」という語は一度も出現しない一方、「構造的」が3回、「持続可能」が7回使われている。ただし同じ資料は「個々の医療機関においては、賃金や物価の上昇により、必要な医療提供に伴う不可避的なコスト増に直面している場合もある」と個別機関レベルの窮状も明示的に認めており、過去データとして診療報酬・薬価改定の医療費伸び率への寄与度が2016〜2023年度にかけてほぼ毎年マイナス(−0.07〜−1.33ポイント)だったことも自ら公表している
- 6あらゆる調査が、医療崩壊の危機を示している全国保険医団体連合会 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 国立大学病院42病院中29病院(69%)が2024年度経常赤字で合計285億円の損失(法人化後最大)、全国自治体病院協議会加盟病院の86%が経常赤字・95%が医業赤字と報告。物価高騰緊急調査では診療報酬改定で経費・人件費を「補填できていない」と回答した医療機関が9割に上り、医療従事者の賃上げ率(2024〜25年で3.4%)は産業平均(7.3%)の半分以下だったとし、明示的に「危機」という語を用いて医療現場の窮状を訴えている
- 7公立病院の令和6年度決算(地方公営企業決算)総務省自治財政局準公営企業室 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 令和6年度、公立病院の83.3%が経常赤字で、赤字額の合計は3,952億円(前年度2,055億円のほぼ2倍)に達したと報告している
- 82023→24年度にかけて病院経営はさらに悪化、医業「赤字」病院割合は74.6%、経常「赤字」病院割合は65.6%——四病協(最終報告)四病院団体協議会(GemMedによる報道) · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 医業赤字病院割合が2023年度70.8%から2024年度74.6%へ、経常赤字割合が52.1%から65.6%へ悪化したと報告。医業収益+2.8%に対し医業費用は+3.5%(材料費+3.5%、給与費+3.2%、電気代+4.8%、ガス代+11.8%)と、コスト増が収益増を上回ったとしている
- 92025年度病院経営定期調査日本病院会・全日本病院協会 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 調査対象1,493病院のうち赤字病院は914病院(61.2%、前年度58.6%から悪化)で、医業収益+4.2%に対し医業費用も+4.1%増加し、増収減益基調が続いていると報告している
- 10令和6年度診療報酬改定について厚生労働省 · 2024 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 令和6年度診療報酬改定の全体改定率は薬価引き下げを含めネットで▲0.12%、本体改定率は+0.88%(うち実質的な「①〜③以外の改定分」は+0.46%、看護職員等の賃上げ充当分が+0.61%)にとどまった
- 11医療機関等を取り巻く状況について厚生労働省保険局医療課(中央社会保険医療協議会総会資料) · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 病院の100床当たり事業収益は+10.3%増加した一方、事業費用はそれを上回る+14.7%増加し事業収支が悪化したと報告。委員からは「近年のコスト増加や医療スタッフの増加の中で、診療報酬に反映しきれていないことが危機的な経営状況の原因である」との発言が記録されている
- 12賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入等を求める合同声明を公表日本医師会・日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 「診療報酬は公定価格であるが、物価・賃金の上昇に対応して上がっていない」と明言し、社会保障関係費の伸びを「高齢化による増加分」の範囲に抑制するという予算編成の目安の廃止と、賃金・物価上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入を、医業赤字69%・経常赤字61%という数字を根拠に要望した
- 13村上総合病院が2025年春に分娩休止、村上・岩船地域の出産施設ゼロに新潟日報 · 2024 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: JA新潟県厚生連が、赤字解消の見込めない産科体制を縮小する経営再建方針の一環として、村上総合病院の分娩取り扱いを2025年春に休止すると決定し、村上・岩船地域から出産施設がゼロになると報じた
- 14夜間のハイリスク分娩の拠点が消える——いまきいれ総合病院、8月から出産対応を休止南日本新聞 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 鹿児島市のいまきいれ総合病院が、常勤産科医の確保見通しが立たないことを理由に2025年8月から出産対応を休止し、再開の見通しも立っていないと報じた(2024年の分娩取り扱い数は2018年比で約50件減の101件)
- 15施設情報調査2025日本産婦人科医会 · 2026 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 分娩取扱施設は2011年の2,378施設から2023年には1,766施設へ約25%減少し、全国約1,700市町村のうち約6割にあたる1,041市町村に産科施設が存在しないと報告している
- 16分娩休止のお知らせ大阪府済生会茨木病院 · 2023 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 常勤医師の退職を理由に2024年2月から分娩の受け入れを休止すると発表した都市部の病院の事例。近隣施設への患者紹介を前提としており、地域から出産施設そのものが消える農村部の事例とは異なる
- 174月の新規採用で4割が必要な看護師数を確保できず——入院制限・病棟閉鎖の恐れ全国保険医団体連合会 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 調査対象医療機関の約4割が2025年4月の新規採用で必要な看護師数を確保できなかったと報告し、「看護師不足がさらに進むと、これまで以上に病棟閉鎖や病床削減、入院制限など医療提供体制の縮小が起こる」と述べているが、これは現時点で実際に生じている病棟閉鎖の報告ではなく、将来のリスクとして述べられている
- 18医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)株式会社帝国データバンク · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 2024年の医療機関倒産は64件・休廃業解散は722件でともに過去最多だったが、件数の大半(786件中618件)を占める診療所の休廃業は主に経営者の高齢化・後継者不在(70歳以上の開業医が45.2%)によるもので、必ずしも診療報酬とコスト上昇の板挟みという財政的要因のみによるものではない
- 19二木立氏インタビュー岩永直子(医療ジャーナリスト)による取材記事 · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 医療経済学者・二木立が、1983年の厚生省保険局長による「医療費亡国論」、2015年の「オプジーボ亡国論」など、医療費が国家財政を破綻させるという言説が過去70年で繰り返し唱えられてきた歴史を指摘している
- 20医療費の将来見通し内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省 · 2018 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 国民医療費(現状投影ベース)は2018年度45.3兆円(対GDP比8.0%)から2040年度78.1〜80.2兆円(対GDP比9.9〜10.1%)に増加すると見通している
- 21令和5(2023)年度国民医療費の概況厚生労働省 · 2024 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 2023年度国民医療費は48兆915億円(過去最高、前年度比+3.0%)だが、対GDP比は8.08%で前年度より0.15ポイント低下している(GDP成長が医療費の伸びを上回った年)
- 22Promoting Health System Resilience Through Health Policy Reform for the Ageing Population of Japan: A Rapid Literature ReviewCureus · 2025 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: Shibuya et al. (2011)を引用しつつ、日本の医療費がGDP比11.0%(2019年)から11.5%(2023年)へ上昇し、2008〜2019年で28%増加、2040年までに改革がなければ27兆円の財源不足が生じると推計しているが、用語としては「crisis」ではなく「insidious health system challenge(忍び寄る課題)」を採用している
- 23Japan's health system toward 2040: structural challenges and a renewed social contractThe Lancet Regional Health – Western Pacific · 2026 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 2011年Lancet日本特集の筆頭著者だったShibuya本人を含む25名の専門家が、約15年ぶりのLancet日本特集として発表した論文。「危機」ではなく「制度的停滞(institutional stagnation)」「戦略的惰性(strategic inertia)」という語で日本の医療制度を再評価し、2040年までに人口の3人に1人が65歳以上になるとして抜本的な制度の再設計を提言している
- 24地域の医療機関の治療アウトカム評価の指標財務省財務総合政策研究所 Financial Review · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 日本には施設別の治療アウトカム指標(死亡率・再入院率等)がほぼ公開されておらず、支出水準が各機関の治療の質に見合っているかを検証する手段自体が乏しい
- 25高齢化と医療・介護費——日本版レッド・ヘリング仮説の検証財務省財務総合政策研究所 フィナンシャル・レビュー · 2014 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 死亡までの期間の変化を考慮すると、高齢化のみを前提にした推計より一人当たり医療・介護費は2025年に1.5%、2060年に3.7%抑制されるが、介護費は2010〜2060年で1人当たり3.3倍になると推計され、高齢化要因を完全には打ち消せないとした
- 26全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療広域連合事務局長会議 保険局調査課説明資料厚生労働省保険局調査課 · 2022 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: 国民医療費の伸び率を人口増・高齢化・診療報酬改定等・その他(医療の高度化等)に分解した公式資料(FY2003-2020)。高齢化の影響は年1.0〜1.8%で安定する一方、その他要因は0.2〜2.9%と変動が大きく、複数年で高齢化の影響を上回る
- 28医療支出と高齢化に関するRed Herring仮説の検討——マクロデータによるアプローチ東北学院大学経済学論集 · 2010 · accessed 2026-08-15裏付けた主張: OECDパネルデータ(1970〜2006年)を用いたマクロレベルの検証では、高齢化率の変数が複数の分析仕様で頑健に有意であり、ミクロレベルの先行研究とは逆に、マクロで見る限りレッドヘリング仮説は支持されないと結論
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