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前提を疑う01 医療費と財源/JAPAN

高齢化は、医療費増大の「主犯」なのか

総論は「高齢化→医療費増大」を前提に組み立てられている。だが問うべきは高齢化が医療費を増やすかどうかではない——増やすことはほぼどの文献も認めている。問うべきは、高齢化が伸びをどこまで説明するのか、そしてその寄与が医療の種類によってどう違うのかである。急性期医療と介護、マクロとミクロで結論が分かれる「レッドヘリング仮説」を軸に検証する。同じ「高齢化による増加分」という言葉が、学術では原因の分析として、予算編成では歳出管理の基準として使われていることも扱う。「前提を疑う」シリーズ第2回。

公開2026-08-14
更新2026-08-31
出典48 SOURCES

ダイジェスト解説 VIDEO

医療費の増大を語るとき、その原因として最初に名指しされるのはたいてい「高齢化」である。しかし前回、支出と質の関係を検証する過程で、この前提自体にひびが入っていることに気づいた。日本の時系列データを用いたある分析が、高齢化率と医療費対GDP比の間に統計的に有意な相関を見出さなかったと報告していたのである※訂正(会議録収録の分析であり、以下で扱う査読誌の蓄積と同じ重みで読むべきものではない。あくまで問いの入口である)。総論の骨格そのものである「高齢化→医療費増大」という因果関係は、本当にそこまで自明なのだろうか。本稿は「前提を疑う」シリーズの第2回として、この問いを国際的な要因分解研究と、日本国内の一次資料の両面から検証する。

国際比較——高齢化の寄与は一様ではない

医療費増加の要因を高齢化・技術進歩・価格・利用量などに分解する研究は、国によってまったく異なる結論に達している。中国の医療費増加を分解した分析では、実質医療費増加の主因は症例あたり支出であり、高齢化の寄与は年0.8ポイントにとどまった1。同じ中国を対象とした別の分解分析でも、高齢化の寄与は21.2%と算出されたが、依然として最大の要因は症例あたり支出(59.6%)だった2。フランスのミクロ・マクロ連結分析では、高齢化自体による医療費増加は相対的に小さく、診療パターンの変化による影響はその3.8倍に達し、健康状態の改善が高齢化コストを相殺しうるとされている3。

一方でイタリアのベイジアンVAR分析は逆の結果を示す。医療費はGDPや平均寿命よりも高齢人口の増加に強く反応することが確認された4。ドイツの分析でも、高齢化・所得・医療進歩を分離した回帰モデルは時間トレンド(医療技術進歩の代理変数)を重視しつつ、死亡関連費用を考慮してもなお、年1%の技術進歩を仮定すればドイツの医療費は2050年までにほぼ倍増する一方、人口の年齢構成そのものの影響は相対的に小さいと推計されている5,6。

韓国は日本の論点に近い反証例を提供している。個票データに死亡までの期間を組み込むと年齢効果は消失し、ベビーブーマー世代の高齢化のみでは医療費のGDP比を押し上げないことが示された7。別の韓国研究でも、構成要素分解法による高齢化の寄与率は10%未満にとどまるとされている8。

こうしたばらつきは個別研究に限らない。20件の先行研究をレビューした分析では、人口高齢化が医療費増加の主要決定要因のひとつであるという確固たる実証的根拠は存在しないと結論づけられており、高齢化を重視した研究と死亡近接性を重視した研究がほぼ拮抗していた(それぞれ6件ずつ)9。OECD26か国のパネルデータでも、死亡直前期の医療費は他の期間の約2倍の伸びを示した一方、年齢そのものによる明確な支出パターンは確認されなかった10。OECD諸国を対象とした別の研究では医療費増加の主因を技術進歩とする一方11、OECD24か国の分析では人口高齢化を含む医療制度特性は統計的に有意な決定要因ではないとされ12、さらに別の分析では国ごとの異質性があまりに大きく、単一モデルへのプーリングそのものが統計的に棄却されている13,14。「高齢化が常に最大要因である」という頑健な通説は、国際的には成立していない。

Time-to-Death(死亡までの期間)という視点

ここで一つ、先に固定しておきたいことがある※追記。以下で「医療費」と呼ばれているものは、文献によって総額であったり、一人当たりであったり、伸び率であったり、対GDP比であったり、病院医療費であったり、医療と介護の合計であったりする。これらは同じものではない。たとえば対GDP比と高齢化率に有意な関係が見えないことは、高齢化が医療費を増やさないことを意味しない——分母のGDPも動くからである。

だから本稿が問うのは「高齢化が医療費を増やすか」ではない。増やすことは、ほぼどの文献も認めている。問うのは、高齢化が医療費の伸びをどこまで説明するのか、そしてその寄与が医療の種類によってどう違うのかである。

このばらつきを整理する鍵となる概念が、「レッドヘリング仮説(red herring hypothesis)」である。これは、医療費を押し上げているのは年齢そのものではなく、死亡までの期間(time-to-death, TTD)——すなわち終末期に医療費が集中する現象——であり、高齢化率の上昇は見せかけの(赤いニシンのような)相関にすぎない、とする仮説である(「レッドヘリング」は「本質から目をそらさせる偽の手がかり」を意味する英語の慣用句である※訂正。)この仮説はZweifelらの1999年の論文に遡る※訂正。その後、2004年以降も死亡近接性を考慮した検証が積み重ねられてきた15。その後、死亡までの期間という変数がもつ内生性(重い病気ほど余命が短くなるという逆の因果)を操作変数法で補正した研究でも、なお死亡までの期間が年齢より医療費を説明する力を持つという結果が確認されている16。

この論争は、突き詰めれば医療費をどんな式で予測するかという問題に行き着く。もっとも素朴な予測式は、年齢ごとの人口 N(a,t)N(a,t) に、年齢ごとの一人当たりコスト c(a)c(a) を掛けて足し合わせるだけの、年齢別コスト曲線モデルである。

E(t)=∑aN(a,t) c(a)E(t) = \sum_{a} N(a,t)\, c(a)

多くの国の長期財政試算は、実質的にこの形を土台にしている。レッドヘリング仮説が提案したのは、この一人当たりコストを年齢だけで決まる c(a)c(a) から、年齢に加えて死亡までの期間 dd も条件とする c(a,d)c(a,d) へ拡張することである※訂正——置き換えではなく、条件を一つ足すのである。

E(t)=∑a, dN(a,d,t) c(a,d)E(t) = \sum_{a,\,d} N(a,d,t)\, c(a,d)

年齢別の人口推計に加えて、年齢別の死亡率(生存曲線)まで組み込む必要があるぶん複雑にはなるが、これによって特に急性期・病院医療費の説明力が大きく向上する、というのがここまで見てきた議論の骨子である。

ただし、この仮説の提唱から20年後の再検証は、慎重な結論を示している。死亡までの期間を区別すべきだという仮説そのものには一定の支持があるが、「高齢化は将来の一人当たり医療費を増やさない」というより強い政策的な主張については、いまだ決着がついていないというのが率直な評価である17。

決着がついていない最大の理由は、この効果が医療の領域によって大きく異なるからである。急性期・病院医療では、死亡までの期間を考慮すると年齢効果が大きく減弱する※訂正。2024年のレビューは病院医療費について年齢効果をnullと総括しているが、個別の研究では年齢効果が小さく残るものもある——病院医療費において年齢・死亡近接性の双方が有意な予測因子だが、死亡直前の接近による費用増加の方が年齢による増加より顕著に大きいこと18、オランダの約1,125万件の入院データでも死亡接近がほとんどの疾患(特にがん)で強い予測因子であり、年齢の影響力はそれに比べて小さいこと19が示されている。ところが介護(長期ケア)では、これと逆の構図になる。系統的レビューは、人口高齢化が急性期医療費を緩やかに増加させるにとどまる一方、介護費は強く増加させると結論しており20、スウェーデンの集計データでも、死亡近接性は有意な予測因子でありつつ、年齢そのものが依然として介護費の主要な決定要因であることが確認されている21。処方薬・外来医療費についてはさらに研究間で結果が一致しない22。フィンランドのデータでも、死亡近接性を統制すると年齢そのものの説明力は弱まるが、その弱まり方は医療区分ごとに一様ではなかった23。つまり「年齢か死亡近接性か」という問いへの答えは、扱う医療の領域によって系統的に反転する。総医療費という粗い単位でこの2つを一括りにした研究が、しばしば「見解が一致していない」という歯切れの悪い結論に至るのも24、この領域差を均してしまっているからだと考えられる。

近年の研究はさらに一歩進み、レッドヘリング効果と、それとは別の「急勾配化(steepening)効果」——年齢別の支出曲線そのものが時代とともに急になっていく現象——が同時に成り立つことを示している。デンマークの病院医療費データでは、死亡までの期間による緩和効果は確かに存在するものの、急勾配化効果がそれを上回り、病院医療費増加の約60%を説明したという25。急勾配化とは、全年齢で一様に支出が増えることではない※訂正。高齢層の支出が若年層より速く伸び、年齢別支出曲線そのものの傾きが時代とともに急になっていく現象である。高齢化そのものというより、この時代変化の方が強い説明変数になりうるということである。

日本国内における検証

日本国内の実証結果も、国際的な構図をそのまま反映するように割れている。VAR・ARMAXモデルを用いた分析では、日本の高齢化率と医療費対GDP比の間に統計的に有意な相関は見出されず、技術進歩・制度効率・文化的な受診行動といった要因も考慮すべきだと結論づけられた26。ある地域の国民健康保険を対象にした構造分析でも、総医療費増加5.00%のうち5.64%が後期高齢者被保険者数の増加による寄与であり、一人当たり医療費はむしろマイナス0.64%の寄与だった——つまり「一人当たりで見た高齢者医療の単価」自体は上がっていなかった27。他方でIwamotoの分析は、日本の過去の医療費増加の約30%を高齢化、残り約70%を技術変化に帰しており28、高齢化の寄与を無視しているわけではない。

死亡までの期間という視点からの日本の検証も、この二層構造を裏づける。死亡に近づくにつれ平均医療費は上昇し、レッドヘリング仮説を部分的に支持する結果が得られているが、がんでは65-75歳の終末期医療費が85-95歳の約6倍に達するなど年齢差も残存しており、死亡までの期間だけではすべてを説明できないとされている29。別の分析では、死亡までの期間は医療費の強い予測因子であり、死亡者では年齢そのものが医療費と負の相関を示す一方、介護費は年齢とともに増加するため、医療費と介護費を合算した総費用では高齢化の寄与を完全には排除できないとされている30。70歳以上の死亡者を対象とした追跡調査では、死亡前60か月間の医療費が生涯医療費の約30%を占め、死亡前12か月間の医療費・介護費合計は平均約5万米ドル(医療費3.8万ドル+介護費1.3万ドル)に達している31。

日本の医療費が本当に高齢者に集中しているのかという点についても、留保が必要である。個票データを用いた分析では、高額医療費は一部の患者に集中しており、65歳以上では死亡年の医療費が総医療費の17%を占める一方、支出の集中度そのものは高齢者よりもむしろ現役世代側で強いという結果も報告されている32。ただしこれは「高齢者ほど医療費がかかる」を否定するものではない※訂正。平均の水準と、分布の集中度は別の指標である。高齢者の平均医療費が若年者より高くても、若年者側の支出がごく少数の重症者に偏っていれば、集中度は若年者側で高くなりうる。別々に問うべき二つの問いである。

地域差の研究も、年齢構成だけでは医療費を説明できないことを示している。都心部と郊外の医療費を比較した分析では、医療費は年齢構成だけでなく、病床数などの供給側要因や、世帯構成・失業率などの社会経済的要因からも影響を受けることが確認されており33、より古い北海道の二次医療圏データを用いた分析でも、入院医療費は需要側要因だけでなく供給側要因からも強い影響を受けることが示されている34。

制度設計という第三の変数——日本の価格統制

高齢化と技術進歩のどちらが「主犯」かという議論には、見落とされがちな第三の変数がある。それは価格そのものを政府がどこまで統制しているか、という制度設計の違いである。日本政府は全国一律の公定価格表を2年ごとに改定し、薬価も引き下げ、算定要件を通じて出来高払い医療の「量」自体まで統制している35。この仕組みのおかげで、高齢化や新技術導入が進む中でも、日本の医療費増加率(GDP比7.7%から8.5%、2000-2008年)は米国など他の先進国より低く抑えられてきたとされる36。2002年には、価格・数量統制の強化と患者自己負担率の引き上げの組み合わせにより、医療費が史上初めて名目ベースで実際に減少したという記録もある37。

この価格統制の仕組みは、日本が1958年以来維持してきた単一の全国一律料金表と、1984年に導入された差額請求の厳格な禁止規定という、2つの柱に支えられている38。臨床現場の視点からも、料金表にない項目の差額請求は厳格に禁止されていると説明されている39。診療報酬価格が全国一律にほぼ固定されているため、日本の医療機関は価格ではなくサービスの質で競い合う構造になっているという指摘もある40。フランス・ドイツ・日本はいずれも標準化された料金表と定期的交渉制度を持つが、関与する利害関係者・改定頻度・交渉範囲は国ごとに異なり41、日本が比較的少ない医療費支出で良好な健康指標を達成できている中核的な仕組みとして、この全国一律の料金表が位置づけられている42。

つまり、日本で「高齢化率上昇→医療費対GDP比上昇」という単純な相関が国際的に見て弱く見えるのは、単なる統計上のノイズではなく、価格制度が人口圧力の一部を吸収しているからだという可能性がある。高齢化という需要側の圧力と、公定価格表という供給側の抑制装置が綱引きをしており、Ma (2024)の分析で相関が消えて見えるのは、この綱引きの結果として支出の伸びが人為的に平準化されているからかもしれない。

厚労省自身の要因分解と、政策の建前

ここまでの国際文献はいずれも英語論文として発見できたものである。しかし日本語の一次資料に当たると、この論点についても総論と同じ構図——国内では活発に検証されているが、国際的には見えにくい——が見えてきた。

厚生労働省保険局は、国民医療費の伸び率を人口増・高齢化・診療報酬改定等・その他(医療の高度化・患者負担の見直し等)に分解した資料を、毎年度の政策検討のために作成している。注意しておきたいのは、この分解では「診療報酬改定等」と「その他」が別の項目だということである※訂正。「その他」に価格改定は含まれない。

2022年の資料によれば、平時の年度において高齢化の影響は年1.0〜1.8%の範囲でおおむね安定して推移している一方、「その他」要因は変動が大きく、複数の年度(例えば2006年度は1.8%対1.3%、2015年度は2.9%対1.0%)で高齢化の影響を上回っている43。(2020年度は新型コロナウイルス感染症による受療行動の変化の影響を強く受けており、平時の年度と並べて読むことはできない。)同様の分解は2016年に中央社会保険医療協議会にも提出されており、ほぼ同水準の数値が確認できる44。

言えるのはこうである。厚生労働省自身の分解でも、高齢化は安定して医療費を押し上げている。同時に、それ以外の要因の寄与が高齢化を上回る年度が珍しくない。したがって、高齢化だけで医療費の伸びを説明することはできない。

日本語文献には、レッドヘリング仮説を日本のデータで正面から検証した研究もある。財務省財務総合政策研究所が公表した分析は、死亡率低下(死亡までの期間の変化)を考慮すると、高齢化のみを前提にした推計より一人当たり医療・介護費が2025年時点で1.5%、2060年時点で3.7%抑制されると試算している。ただし同じ分析は、介護費が2010年から2060年にかけて一人当たり3.3倍(医療費は1.5倍)になると推計しており、レッドヘリング仮説は一定程度あてはまるものの、高齢化要因を完全には打ち消せないと結論づけている45。これは国際文献で見た「急性期医療ではレッドヘリング寄り、介護では年齢寄り」という領域差の構図と、日本のデータでも一致する。

もっとも、この論点についてはマクロで見るかミクロで見るかによっても結論が変わりうる。OECDパネルデータ(1970-2006年)を用いたマクロレベルの日本の研究では、高齢化率の変数が複数の分析仕様で頑健に有意であり、ミクロレベルの先行研究とは逆に、マクロで見る限りレッドヘリング仮説は支持されないと結論づけられている46。同じ「高齢化は主犯か」という問いに、個々の患者データを見るか、国全体の集計データを見るかで、違う答えが出てくるということである。

最後に、実証的な知見と、実際の予算編成とで、同じ言葉が別の役割を果たしていることを見ておきたい。社会保障関係費の実質的な伸びを「高齢化による増加分」の範囲に収めるという骨太方針の方針は、2019年度以降、毎年度の予算編成における明示的な基準として使われ続けている47。

令和8年度の内訳はこうである※訂正48。

社会保障関係費については……人口構造の変化に伴う増分である高齢化による増加分(+2,500億円程度)に、診療報酬改定・介護報酬改定をはじめとする対応や、年金スライド分を含む、「経済・物価動向等への的確な対応分」(+5,200億円程度)を加算している。

合計7,700億円のうち、「高齢化による増加分」は2,500億円である。

そして重要なのは、これが因果の主張ではないということである※訂正。財務省が言っているのは「観測された医療費増加の原因は高齢化だ」ではなく、「人口構造の変化によって機械的に増える分までは認め、それを超える伸びは改革で抑える」という歳出のルールである。しかも令和7・8年度は、物価・賃金への対応分を別途加算する形に明示的に改められている。

つまりここにあるのは、実証研究と財政運営の「矛盾」ではない。同じ「高齢化による増加分」という言葉が、一方では原因の分析として、他方では予算管理の基準として使われている、ということである。前者では論争が続いているが、後者ではその論争は問われていない。問われる必要が無い——ルールとして機能させるために選ばれた数字だからである。

ここまでの検証で見えてくるのは、「高齢化は医療費増大の主犯である」という総論の前提が、単数形の問いとしては粗すぎるということである。

中国・フランス・韓国の複数の分析は、高齢化の寄与を過大評価しないよう警告している。厚生労働省自身の要因分解でも、高齢化は年1.0〜1.8%で安定して医療費を押し上げる一方、それ以外の要因の寄与が高齢化を上回る年度が珍しくない※訂正。高齢化だけで医療費の伸びを説明することはできない。

ただし、逆を示す国内データもある※訂正。先に見たMatsuda (2007)の地域国保の分析では、総医療費増加5.00%に対し、後期高齢者被保険者数の増加による寄与が+5.64%——高齢者数の増加だけで、ネットの増加を上回っている。一人当たり医療費の−0.64%がそれを一部相殺した形である。この地域・この期間については、「高齢化が主犯」のほうが実態に近い。

しかし、これを単純に「高齢化は無罪だ」と言い切ることもできない。レッドヘリング仮説の20年後の再検証が示すように、この論争で頑健に支持されているのは「死亡までの期間を区別して分析すべきだ」という方法論的な教訓であり、「高齢化は将来の医療費を増やさない」という強い政策的主張ではない。そして領域を分けて見ると、答えはむしろ明確に分岐する。急性期・病院医療では、死亡までの期間を考慮すると年齢の説明力はほぼ消える。しかし介護においては、年齢そのものがなお強い説明変数であり続ける。日本の田近・菊池(2014)の推計が示すように、医療費の高齢化寄与は死亡率低下によってある程度相殺されうるが、介護費は2010年から2060年にかけて一人当たり3.3倍になると見込まれており、この領域では「高齢化は主犯である」という総論の前提の方が、むしろ正確に近い。

つまり、「高齢化は医療費増大の主犯か」という問いへの答えは、急性期医療か介護かで反転する二層構造になっている。ここまで見てきた研究間の結論のばらつきそのものが、実はこの二層を分けずに「医療費」とひとくくりにして扱ってきたことの帰結ではないか、というのが本稿の見立てである。介護費では、医療費に比べて年齢が強い予測因子として残る※訂正。(もっとも「年齢だけでほぼ決まる」わけではない。認知症の有無、同居家族とインフォーマルケア、施設の供給量、要介護認定の運用、サービス価格、利用率、そのつどの制度改正——いずれも介護費を動かす。2024年のレビューが言っているのも「年齢は介護費を強く予測する」であって、「年齢だけで決まる」ではない。)一方、急性期・病院医療における価格・技術・受診行動は、制度設計や政策によって変えうる、本当の意味で不確実な領域である。性質の異なるこの2つをひとつの回帰式に押し込めて「高齢化の効果」を求めようとすれば、答えがぼやけるのはむしろ当然であり、レッドヘリング論争が20年を経てもなお決着しない一因も、ここにあるのかもしれない。だとすれば必要なのは、両者を混ぜたまま精緻化することではなく、最初から別の問いとして切り分けることだろう。式で表せば、次のように医療費と介護費を最初から別項として立てればよい。

Etotal(t)=Emed(t; a,d)+Eltc(t; a)E_{\text{total}}(t) = E_{\text{med}}(t;\,a,d) + E_{\text{ltc}}(t;\,a)

(med\text{med}=医療費、ltc\text{ltc}=介護費)。医療費側は死亡までの期間 dd で重みづけし、介護費側は年齢 aa だけで重みづける——実のところ、日本のデータでレッドヘリング仮説を検証した田近・菊池(2014)の推計は、死亡率低下を医療費側にのみ織り込み、介護費側は年齢別の要介護認定率をベースにした素朴なモデルのまま将来推計するという形で、すでにこの分離を実装している45。

もっとも、この2項への分割にもなお粗さが残っているように思う。「医療費」「介護費」という区分は、あくまで医療保険と介護保険という制度上の管轄の違いであって、コストが死亡近接性で決まるか年齢そのもので決まるかという経済学的な区分とは、必ずしも一致しない。慢性疾患の外来管理や老年医学的なケアのように、統計上は「医療費」に計上されながら、実態としては年齢そのものに強く相関する領域が存在するはずである。実際、処方薬・外来医療費についてはTTDと年齢のどちらが説明力を持つか研究間で結果が一致していなかった22のも、この境界のあいまいさの表れなのかもしれない。だとすれば、EmedE_{\text{med}} をひとつの項として扱うのではなく、医療費の内部でさらに急性期(死亡近接性駆動)と慢性期(年齢駆動)を切り分けるか、あるいは慢性期医療の部分を介護側の項に合流させる、という分解が考えられる。

ここから先は、文献から直接導かれる結論ではなく、本稿から得られた作業仮説である※訂正。急性期=死亡近接性駆動、慢性期・介護=年齢駆動と割り切れるだけの証拠は、まだ無い。外来・処方薬について研究結果が混在していることは、上に見たとおりである。検証すべき分解の一案、という位置づけにとどまる。

Etotal(t)=Eacute(t; a,d)+Echronic(t; a)+Eltc(t; a)E_{\text{total}}(t) = E_{\text{acute}}(t;\,a,d) + E_{\text{chronic}}(t;\,a) + E_{\text{ltc}}(t;\,a)

(acute\text{acute}=急性期医療費、chronic\text{chronic}=慢性期医療費、ltc\text{ltc}=介護費)。

「医療」「介護」という制度上の区分と、「死亡近接性駆動」「年齢駆動」という経済学的な区分は、別の軸である。前者は保険制度がどちらの財布から払うかを決めているにすぎず、後者はコストが実際にどう発生しているかを表す。この2つの軸を無自覚に重ねて論じてしまっていることが、レッドヘリング論争を実際以上にわかりにくくしている一因なのかもしれない。

総合診療・地域医療は、この二層のどちらか一方に属さない※訂正。急性疾患も、慢性疾患も、多疾患併存も、高齢者医療も、在宅も、介護連携も、予防も扱う。死亡近接性の影響が強い領域と、年齢・機能障害の影響が強い領域の境界を、横断している。

だからこそ、「高齢化」という一変数で需要を説明することの限界が、最も見えやすい場所でもある。そして総合診療の意義を「高齢化という不可避の圧力への対応」としてだけ語るのは、正確ではないのかもしれない。むしろ、日本の全国一律の公定価格表という価格統制装置と同じように、総合診療は「支出をどこに、どう配分するか」を左右する制度設計上の変数のひとつとして位置づけた方が、実証的な裏づけとの整合性が高い。


最後に、この記事の答えを一文で書いておく。

高齢化は、医療費を押し上げる実在する要因である。それは否定できない。だが、その寄与を「最大の要因」と呼べるかどうかは、何を医療費と呼ぶか、どの期間を見るか、死亡までの期間を調整するか、医療か介護か、そして制度が価格と利用量をどう統制しているかによって変わる。

つまり「高齢化は主犯か」という問いそのものが、粗すぎたのである。高齢化は一人の犯人ではない。病院医療、外来、薬剤、介護で、それぞれ違う経路を通って支出に作用している。

最後に、この記事を書く過程で最も引っかかったのは、実証研究の世界と予算編成の世界の間にある断絶である。学術的には高齢化の寄与度をめぐって数十年にわたり論争が続いているにもかかわらず、日本の実際の予算編成では、「高齢化による増加分」という単一の数字が、あたかも精緻に確定した既定路線であるかのように、社会保障費の伸びの上限を決める基準として機能し続けている。これは怠慢というより、複雑な実証的論争を政策運営可能な単純なルールに変換する際の、ある種の必然的な単純化なのだろう。しかし、この単純化された「高齢化による増加分」という前提そのものが、今回見てきたように、実は学術的にはかなり不確かな土台の上に立っている。医療費をめぐる政策論議を追ううえで、この「実証の複雑さ」と「予算編成の単純さ」の間のギャップを意識しておくことには、相応の価値があると思う。

訂正 CORRECTIONS

公開後に直したこと。本文は直したうえで、何をどう変えたかをここに残している。本文中の※ が、直した箇所を指す。

  1. 訂正令和8年度の「高齢化による増加分」を0.77兆円と書いていたのを訂正した。高齢化による増加分は約2,500億円で、0.77兆円は経済・物価動向等への対応分約5,200億円を加えた合計である2026-08-31 · mof-koreika-bun財務省の令和8年度予算の説明は「人口構造の変化に伴う増分である高齢化による増加分(+2,500億円程度)に、診療報酬改定・介護報酬改定をはじめとする対応や、年金スライド分を含む、『経済・物価動向等への的確な対応分』(+5,200億円程度)を加算している」と明記している。合計7,700億円のうち高齢化分は2,500億円であり、0.77兆円全体を高齢化による増加分と読むのは誤りだった
  2. 訂正実証研究と予算編成を「矛盾」「断絶」として書いていたのを改めた。財務省のルールは因果の主張ではなく歳出管理の基準であり、そもそも問いが違う2026-08-31 · zaisei-rule「社会保障関係費の実質的な伸びを高齢化による増加分に抑える」は、観測された医療費増加の原因が高齢化であるという因果推論ではなく、人口構造の変化による機械的な増分までは認めそれを超える伸びは改革で抑えるという歳出ルールである。令和7・8年度は物価・賃金への対応分を別途加算する形に明示的に改められてもいる。同じ言葉が原因分析と予算管理という別の役割で使われている、という書き方に改めた
  3. 訂正考察部でMatsuda (2007)の結論を逆に要約していた。同研究は高齢者数の増加だけで総医療費増加を上回る寄与を示しており、本稿にとってはむしろ反証例である2026-08-31 · matsuda-gyaku本文前半では正しく「総医療費増加5.00%のうち5.64%が後期高齢者被保険者数の増加による寄与、一人当たり医療費は−0.64%」と記載していたが、考察部で「高齢被保険者数の増加そのものよりも一人当たり単価や技術・制度要因の方が支出の伸びを説明している」と真逆に要約していた。反証例として提示し直した
  4. 訂正支出の集中度が現役世代側で強いことをもって「高齢者ほど医療費がかかるという直感は支持されない」と書いていたのを訂正した。平均の水準と分布の集中度は別の指標である2026-08-31 · shuchudo高齢者の平均医療費が若年者より高くても、若年者側の支出がごく少数の重症者に偏っていれば集中度は若年者側で高くなりうる。両者は別々に問うべき問いであり、集中度から平均水準を否定することはできない
  5. 訂正介護費を「要介護認定率や平均要介護度が年齢によってほぼ規定される」「人口推計さえあればほぼ機械的に見積もれる」と書いていたのを弱めた2026-08-31 · kaigo-kikaiteki介護費は認知症の有無、同居家族とインフォーマルケア、施設の供給量、要介護認定の運用、サービス価格、利用率、制度改正にも左右される。2024年のレビューが述べているのは年齢が介護費を強く予測するということであって、年齢だけで決まるということではない
  6. 追記「医療費」と呼んでいるものが文献によって総額・一人当たり・伸び率・対GDP比・病院医療費などに分かれることを、本文の早い段階で明示する節を追加した2026-08-31 · outcome-kubetsuこれらは同じ指標ではなく、たとえば対GDP比と高齢化率に有意な関係が見えないことは高齢化が医療費を増やさないことを意味しない(分母のGDPも動く)。本稿が問うのは高齢化が医療費を増やすかどうかではなく、伸びをどこまで説明するか、そして寄与が医療の種類によってどう違うか、である旨を先に固定した
  7. 訂正レッドヘリング仮説の起点を「2004年の基礎的な研究」と書いていたのを、Zweifelらの1999年論文に訂正した2026-08-31 · redherring-19992004年のZweifel論文は後続研究であり、原典は Zweifel, Felder & Meier (1999) である。20周年レビューも1999年を起点としている
  8. 訂正「レッドヘリング」の語源として猟犬の訓練で燻製ニシンが使われたという説明を書いていたが、語源研究では有力な説ではないため削除した2026-08-31 · gogen実際の狩猟慣行というより、1807年のWilliam Cobbettの逸話から比喩が広まったという説が有力である。本筋に必要のない記述なので、慣用句の意味だけを残した
  9. 訂正一人当たりコストを「年齢の関数ではなく死亡までの期間の関数に置き換える」と書いていたが、直後の式は c(a,d) であり矛盾していた。置換ではなく条件の追加である2026-08-31 · shikitenレッドヘリング仮説が提案したのは c(a) を c(a,d) へ拡張することであって、年齢を死亡までの期間で置き換えることではない
  10. 訂正急性期・病院医療で「年齢効果は消失する」と書いていたのを「大きく減弱する」に改めた。直後に引用しているWong論文について本文自身が年齢も有意と書いており矛盾していた2026-08-31 · byoin-nenrei2024年のレビューは病院医療費について年齢効果をnullと総括しているが、個別研究には年齢効果が小さく残るものもある。文献間の違いそのものを書く形にした
  11. 訂正急勾配化(steepening)を「同じ年齢の患者に対して以前より多くの医療が投じられる」と説明していたのを訂正した2026-08-31 · steepening急勾配化は全年齢で一様に支出が増えることではなく、高齢層の支出が若年層より速く伸び、年齢別支出曲線の傾きそのものが時代とともに急になることである
  12. 訂正厚生労働省の要因分解について「その他」要因に診療報酬改定を含めて書いていたのを訂正した。同分解では「診療報酬改定等」と「その他」は別の項目である2026-08-31 · sonota-shinryohoshu本稿の出典 mhlw-national-medical-expenditure-decomposition-2022 の claim には正しく「人口増・高齢化・診療報酬改定等・その他」と別項目として記載していたが、本文が食い違っていた。あわせて「その他は0.2-2.9%」という範囲は2020年度の新型コロナウイルス感染症の影響を受けた年度を平時と並べて読めないため、平時の年度に限定する書き方に改めた。また「高齢化が主犯とは言い切れないことが政府データによって裏づけられる」という書き方も、高齢化が安定してプラス寄与であることを踏まえ「高齢化だけで伸びを説明することはできない」に改めた
  13. 訂正急性期・慢性期・介護の三項分解を「より正確なはずである」と書いていたのを、文献から直接導かれる結論ではなく作業仮説である旨を明記した書き方に改めた2026-08-31 · kasetsu急性期=死亡近接性駆動、慢性期・介護=年齢駆動と割り切れるだけの証拠は無い。外来・処方薬については研究結果が混在することを本稿自身が書いている。検証すべき分解の一案という位置づけに改めた
  14. 訂正「総合診療・地域医療が主に関わるのは急性期医療の側」と書いていたのを訂正した。総合診療は二層のどちらか一方ではなく、その境界を横断する領域である2026-08-31 · sogo-shinryo-kyuseiki総合診療は急性疾患・慢性疾患・多疾患併存・高齢者医療・在宅・介護連携・予防をまたぐ。死亡近接性の影響が強い領域と年齢・機能障害の影響が強い領域の境界を横断しており、だからこそ高齢化という一変数で需要を説明することの限界が最も見えやすい、という書き方に改めた
  15. 訂正冒頭で入口に置いたMa (2024)について、「日本国内で」を「日本の時系列データを用いたある分析が」に改め、会議録収録であり査読誌の蓄積と同じ重みでは読めないことを明記した。「有意な強い相関」も「有意な相関」に改めた2026-08-31 · ma-2024同分析はSHS Web of Conferencesの会議録に収録されたものである。本稿が同時に扱っている Health Economics 等の査読研究と同じ重みで扱うべきではないため、問いの入口という位置づけを明示した

出典 SOURCES

  1. 1Main drivers of health expenditure growth in China: a decomposition analysisBMC Health Services Research · 2017 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 1993-2012年の中国データの分解分析で、実質医療費増加の主因は症例あたり支出(年8.4ポイント)であり、高齢化の寄与は年0.8ポイントにとどまった
  2. 2A decomposition analysis of recent health expenditure growth in China: is population ageing a significant effecting factor?China Population and Development Studies · 2020 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 別の中国分解分析では、高齢化の寄与は21.2%だったが、依然として症例あたり支出が59.6%と最大の要因だった
  3. 3Health expenditure growth: reassessing the threat of ageingHealth Economics · 2006 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: フランスのミクロ・マクロ連結分析で、高齢化自体による医療費増加は相対的に小さく、診療パターン変化の影響はその3.8倍大きいことが判明した
  4. 4The effects of population ageing on health care expenditure: A Bayesian VAR analysis using data from ItalyHealth Policy · 2017 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: イタリアの1990-2013年データのベイジアンVAR分析では、医療費はGDPや平均寿命よりも高齢人口の増加に強く反応した
  5. 5Gesundheitsausgaben, Alter und medizinischer Fortschritt: Eine Regressionsanalyse / Ageing, Medical Progress and Health Care Expenditures: A Regression AnalysisJahrbücher für Nationalökonomie und Statistik · 2000 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: ドイツの1970-95年データの回帰分析で、医療費増加を高齢化・所得増加・時間トレンドに分解し、時間トレンドを医療技術進歩の代理変数として解釈した
  6. 6Life expectancy and health care expenditures: a new calculation for Germany using the costs of dyingHealth Policy · 2006 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 死亡関連費用を考慮しても、年1%の技術進歩を仮定するとドイツの医療費は2050年までにほぼ倍増する一方、人口の年齢構成のみによる影響は相対的に小さいと推計された
  7. 7Population Aging and Healthcare Expenditure in KoreaHealth Economics · 2016 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 韓国の個票データで死亡までの期間を統制すると年齢効果は消失し、ベビーブーマー世代の高齢化のみでは医療費のGDP比を押し上げない可能性が示された
  8. 8Aging Risk and Health Care Expenditure in KoreaInternational Journal of Environmental Research and Public Health · 2010 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 構成要素分解法により、人口高齢化の医療費増加への寄与率は10%未満にとどまることが示された
  9. 9Review of the literature on the determinants of healthcare expenditureApplied Economics · 2011 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 20件の先行研究レビューで、人口高齢化が医療費増加の主要決定要因のひとつであるという確固たる実証的根拠は存在しないと結論(高齢化を強調した研究6件、死亡近接性を強調した研究6件と見解は拮抗)
  10. 10Age or time-to-death – what drives health care expenditures? Panel data evidence from the OECD countriesIBS Working Papers · 2016 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: OECD26か国のパネルデータで、死亡直前期の医療費は他の期間の約2倍の伸び率を示した一方、年齢そのものによる明確な支出パターンは確認されなかった
  11. 11Convergence and determinants of health expenditures in OECD countriesHealth Economics Review · 2017 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: OECD諸国データ(1975-2004年)の分析で、医療費増加の主要因は技術進歩であると結論した
  12. 12The black box of health care expenditure growth determinantsHealth Economics · 1998 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: OECD24か国の医療費伸び率の決定要因分析で、人口高齢化を含む医療制度特性は統計的に有意な決定要因ではないことを示した
  13. 13The determinants of health care expenditure: testing pooling restrictions in small samplesHealth Economics · 2003 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 小標本でのプーリング制約検定を通じ、国ごとに医療費決定要因の異質性が大きく、単一モデルへのプーリングは統計的に棄却されることを示した
  14. 14The relationship between health expenditures and the age structure of the population in OECD countriesHealth Economics · 1996 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: OECD諸国の分析で、高齢化が医療費に影響する国と影響しない国が混在し、国固有の未観測要因が大きな役割を果たすことが確認された
  15. 15Population Ageing and Health Care Expenditure: New Evidence on the 'Red Herring'The Geneva Papers on Risk and Insurance - Issues and Practice · 2004 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 死亡近接性を統制しないと人口高齢化が医療費に与える影響を過大評価するとし、死亡までの期間の重要性を示した基礎的な「レッドヘリング」論文
  16. 16Do red herrings swim in circles? Controlling for the endogeneity of time to deathJournal of Health Economics · 2010 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 死亡までの期間の内生性を操作変数法で補正した上でも、死亡までの期間が年齢より医療費を説明する力を持つという「レッドヘリング仮説」を支持する結果を得た
  17. 17The 'red herring' after 20 years: ageing and health care expendituresThe European Journal of Health Economics · 2021 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: レッドヘリング仮説提唱から20年後の再検証で、死亡までの期間を区別すべきという仮説自体には一定の支持があるが、「高齢化は将来の一人当たり医療費を増やさない」というより強い政策的主張は決着がついていないとした
  18. 18Ageing and health-care expenditure: the red herring argument revisitedHealth Economics · 2004 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 病院医療費において年齢・死亡近接性の双方が有意な予測因子だが、死亡直前の接近による費用増加は年齢による増加より顕著に大きい
  19. 19Exploring the influence of proximity to death on disease-specific hospital expenditures: a carpaccio of red herringsHealth Economics · 2011 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: オランダの入院データ(約1,125万件)を用いた疾患別分析で、死亡接近はほとんどの疾患(特にがん)で有意な予測因子であり、年齢もその統制後に有意だがTTDに比べ影響力は小さい
  20. 20The effect of population aging on health expenditure growth: a critical reviewEuropean Journal of Ageing · 2013 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 系統的レビューの結論として、人口高齢化は急性期医療費を緩やかに増加させるにとどまるが、介護費は強く増加させる
  21. 21Testing the red herring hypothesis on an aggregated level: ageing, time-to-death and care costs for older people in SwedenThe European Journal of Health Economics · 2014 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: スウェーデンの集計データで介護費への「レッドヘリング仮説」を検証した結果、死亡近接性は有意な予測因子であるものの、年齢そのものが依然として介護費の主要な決定要因であることが示された
  22. 22Aging populations and expenditures on healthThe Journal of the Economics of Ageing · 2024 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 急性期・病院医療費では死亡までの期間を考慮すると年齢効果は消失するが、処方薬・外来医療費については研究間で結果が一致せず、介護費では年齢が依然として強い説明力を持つ
  23. 23Aging, health expenditure, proximity to death, and income in FinlandHealth Economics, Policy and Law · 2008 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: フィンランドのデータでは、死亡近接性を統制すると年齢そのものの医療費への説明力は弱まり、医療区分ごとに年齢の効果は一様でなかった
  24. 24The Effect of Ageing and Time-to-Death on Health Care ExpendituresHealth Review · 2020 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 先行研究26件(年齢を検討した15件、死亡近接性を検討した11件)を対象とした系統的レビューで、総医療費について年齢と死亡近接性のどちらが主要な決定要因かは研究間で見解が一致していないと結論
  25. 25Competing Demographic Drivers of Hospital Expenditures: Coexistence of the Red Herring and the Steepening EffectsHealth Economics · 2026 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: デンマークの病院医療費データで「レッドヘリング」効果と、年齢別支出曲線が時代とともに急勾配化する効果が併存し、後者が前者を上回って病院医療費増加の約60%を説明した
  26. 26The Relationship Between Aging, Economic Development and Healthcare Expenditure in Japan: An Empirical AnalysisSHS Web of Conferences · 2024 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: VAR・ARMAXモデルを用いた分析で、日本の高齢化率と医療費対GDP比の間に統計的に有意な強い相関は見られず、技術進歩・制度効率・文化的な受診行動といった要因も考慮すべきと結論
  27. 27Structural Analysis of the Factors Associated with Increase in Health Expenditures for the Aged in JapanAsian Pacific Journal of Disease Management · 2007 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: ある地域の国保構造分析で、総医療費増加5.00%のうち5.64%が後期高齢者被保険者数の増加による寄与であり、一人当たり医療費はむしろマイナス0.64%の寄与だった
  28. 28Issues in Japanese Health Policy and Medical ExpenditureEdward Elgar Publishing(書籍所収論文) · 2004 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 日本の過去の医療費増加のうち約30%が人口高齢化、残り約70%が医療技術進歩によるものと分析した
  29. 29Examining proximity to death and health care expenditure by disease: a Bayesian-based descriptive statistical analysis from the National Health Insurance database in JapanHealth Economics Review · 2022 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 死亡に近づくにつれ平均医療費は上昇しレッドヘリング仮説を部分的に支持するが、がんでは65-75歳の終末期医療費が85-95歳の約6倍に達するなど年齢差も残存し、死亡までの期間だけでは説明しきれない
  30. 30Micro Data Analysis of Medical and Long-Term Care Utilization Among the Elderly in JapanInternational Journal of Environmental Research and Public Health · 2010 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 死亡までの期間は医療費の強い予測因子で、死亡者では年齢そのものが医療費と負の相関を示す一方、介護費は年齢とともに増加するため、医療費と介護費の合算では高齢化の寄与を完全には排除できない
  31. 31Trajectories of end-of-life medical and long-term care expenditures for older adults in Japan: retrospective longitudinal study using a large-scale linked database of medical and long-term care claimsBMC Geriatrics · 2021 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 70歳以上の日本人死亡者で、死亡前60か月間の医療費は生涯医療費の約30%に相当し、死亡前12か月間の医療費・介護費合計は平均約5万米ドル(医療費3.8万ドル+介護費1.3万ドル)だった
  32. 32Medical Spending in Japan: An Analysis Using Administrative Data from a Citizen's Health Insurance PlanFiscal Studies · 2016 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 高額医療費は一部の患者に集中しており、65歳以上では死亡年の医療費が総医療費の17%を占める。支出の集中度は高齢者よりも現役世代の方で強いという結果もある
  33. 33Regional Variation in National Healthcare Expenditure and Health System Performance in Central Cities and Suburbs in JapanHealthcare · 2022 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 医療費は年齢構成だけでなく、病床数などの供給側要因や、世帯構成・失業率などの社会経済的要因からも影響を受ける
  34. 34Regulatory factors of medical care expenditures for older people in Japan--analysis based on secondary medical care areas in HokkaidoHealth Policy · 2000 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 北海道の二次医療圏データを用いた分析により、入院医療費は需要側要因だけでなく供給側要因からも強い影響を受けることが示された
  35. 35Controlling Spending For Health Care And Long-Term Care: Japan's Experience With A Rapidly Aging SocietyHealth Affairs · 2023 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 日本政府は全国一律の公定価格表を2年ごとに改定し薬価も引き下げるほか、算定要件を通じて出来高払い医療の量自体も統制している
  36. 36In Japan, All-Payer Rate Setting Under Tight Government Control Has Proved To Be An Effective Approach To Containing CostsHealth Affairs · 2012 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 高齢化や新技術導入が進む中でも、全国一律の公定価格表による統制のおかげで日本の医療費増加率(GDP比7.7%→8.5%、2000-2008年)は米国など他先進国より低く抑えられた
  37. 37Japan's health care system: containing costs and attempting reformHealth Affairs · 2004 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 2002年、診療報酬点数表を通じた価格・数量統制の強化と患者自己負担率の引き上げの組み合わせにより、医療費が史上初めて名目ベースで実際に減少した
  38. 38Japan: achieving UHC by regulating paymentGlobalization and Health · 2019 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 日本は1958年以来の単一の全国一律料金表と、1984年導入の差額請求の厳格な禁止規定を組み合わせた支払い規制を、皆保険達成の軸としてきた
  39. 39Health Insurance Systems in Japan: a Neurosurgeon's ViewNeurologia medico-chirurgica · 2004 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 臨床医の実務的視点から、日本では単一の全国共通料金表が公私問わず適用され、料金表にない項目の差額請求は厳格に禁止されていると説明している
  40. 40Japanese healthcare: Fostering competition and controlling costsHealthcare Management Forum · 2017 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 診療報酬価格が全国一律にほぼ固定されているため、日本の医療機関は価格ではなくサービスの質で競い合う構造になっている
  41. 41Getting The Price Right: How Some Countries Control Spending In A Fee-For-Service SystemHealth Affairs · 2020 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: フランス・ドイツ・日本はいずれも標準化された料金表と定期的交渉制度を持つが、関与する利害関係者・改定頻度・交渉範囲は国ごとに異なる
  42. 42Cost containment and quality of care in Japan: is there a trade-off?Lancet · 2011 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 日本が比較的少ない医療費支出で良好な健康指標を達成できている中核的な仕組みとして、全国一律の診療報酬点数表を位置づけている
  43. 43全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療広域連合事務局長会議 保険局調査課説明資料厚生労働省保険局調査課 · 2022 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 国民医療費の伸び率を人口増・高齢化・診療報酬改定等・その他(医療の高度化等)に分解した公式資料(FY2003-2020)。高齢化の影響は年1.0-1.8%で安定する一方、その他要因は0.2-2.9%と変動が大きく、複数年で高齢化の影響を上回る
  44. 44医療費の伸びの要因分解(中医協総-7参考)厚生労働省保険局・中央社会保険医療協議会総会資料 · 2016 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 同じ要因分解手法を用いた2016年時点の中医協提出資料(FY2003-2015)。前掲2022年資料とほぼ同水準の数値を示しており、この分解が一時的な分析でなく制度的に継続されてきたことを示す
  45. 45高齢化と医療・介護費——日本版レッド・ヘリング仮説の検証財務省財務総合政策研究所 フィナンシャル・レビュー · 2014 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 死亡率低下(死亡までの期間の変化)を考慮すると、高齢化のみを前提にした推計より一人当たり医療・介護費は2025年に1.5%、2060年に3.7%抑制される。ただし介護費は2010-2060年で1人当たり3.3倍(医療費は1.5倍)になると推計され、高齢化要因を完全には打ち消せないとした
  46. 46医療支出と高齢化に関するRed Herring仮説の検討——マクロデータによるアプローチ東北学院大学経済学論集 · 2010 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: OECDパネルデータ(1970-2006年)を用いたマクロレベルの検証では、高齢化率の変数が複数の分析仕様で頑健に有意であり、ミクロレベルの先行研究とは逆に、マクロで見る限りレッドヘリング仮説は支持されないと結論
  47. 47持続可能な社会保障制度の構築(財政各論II)財務省財政制度等審議会財政制度分科会 · 2026 · accessed 2026-08-14裏付けた主張: 骨太方針の方針を受け、社会保障関係費の実質的な伸びを「高齢化による増加分」の範囲に収めることが、2019年度以降毎年度の予算編成における明示的な基準として使われ続けている(令和8年度は+0.77兆円)
  48. 48特集 令和8年度予算について財務省広報誌『ファイナンス』 · 2026 · accessed 2026-08-31裏付けた主張: 令和8年度予算の説明。「社会保障関係費については、保険料負担の抑制努力を継続しつつ、人口構造の変化に伴う増分である高齢化による増加分(+2,500億円程度)に、診療報酬改定・介護報酬改定をはじめとする対応や、年金スライド分を含む、『経済・物価動向等への的確な対応分』(+5,200億円程度)を加算している」と明記する。すなわち合計約7,700億円のうち高齢化による増加分は約2,500億円である。また「実質的な伸びを高齢化による増加分に抑えた上で、診療報酬改定における今後の物価・賃上げ対応や、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬改定における現場で働く方々の処遇改善など、経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算している」とあり、これが原因の分析ではなく歳出管理のルールであることが読み取れる。社会保障関係費の計上額は39兆559億円

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