構造から診る02 アクセスと提供体制/JAPANOTHER
死をめぐる会話は、誰が引き受けているのか
医療心理学・生命倫理・医療コミュニケーションが同じ場面に集まり、三分野とも臨床家個人に技術を手渡す。その技術の来歴を辿ると、SPIKESの原著は自らを「経験的データから完全には導かれていない」と書き、Kübler-Rossの原典は段階が順に進むという理解を否定していた。日本の法令には、事前指示も尊厳死も終末期も延命措置も条文に一語もない。ただし制度が何も定めていないわけではない。国は終末期の決定を専用法ではなく、多職種チームによる反復的な対話に委ねている。具体化されていないのは、その対話を誰がいつ開始し、どの資源で支えるかである。
ダイジェスト解説 VIDEO
このシリーズは、四つの分野がそれぞれ独立に「個人のせいにしない」と言ってきたことを背骨にしている。医療社会学の出発点、バーンアウトの重心は職場にあること、エラーは無能な個人の産物ではないこと、障害は人の中の欠損ではないこと。
終わり方の場面だけ、集まり方が逆だった。
医療心理学は段階を見分ける知識を渡す。生命倫理は原則を当てる技術を渡す。医療コミュニケーションは手順を踏む方法を渡す。三つとも、その場にいる臨床家一人の能力の形をしている。
この場面だけ、なぜ個人に渡されるのか。——そう思って、渡されているものの来歴を辿った。そして日本で、その個人が何を背負わされているかを調べた。
先に書いておく。私の想定は、二か所で外れた。
日本の法令に、その語は一つも無い
前回、日本には第三者の医療同意についての法令上のルールが無く、政府自身が「慣習で行われている」と書いていることを確かめた。会話の側は、もっと徹底していた。
e-Gov 法令検索で、法律・政令・省令の条文を全文検索した1。
| 検索語 | 該当 |
|---|---|
| 事前指示/リビングウィル | 0件 |
| 尊厳死/安楽死 | 0件 |
| 終末期 | 0件 |
| 延命措置/延命治療 | 0件 |
| アドバンス・ケア・プランニング | 0件 |
「人生の最終段階」だけが3件ある。だがその3件は、患者の権利や手続を定めたものではない。
この検索で確かめられるのは、指定した語が法律・政令・省令の条文に無いことだけである※訂正。判例も、一般的な説明義務や同意原則も、刑法・民法上の評価も、この検索の外にある。以下で「法律が無い」と書くときの意味は、終末期医療の決定手続や事前指示の効力を包括的に定めた専用法・明文規定が確認できない、である。社会保障制度改革推進法第6条の政府の措置の列挙、持続可能な社会保障制度確立法第4条第5項の政府への努力義務(「努めるものとする」)、そして医療法施行規則別表第八の報告項目である。
ガイドラインは、自分が何であるかを言わない
代わりに置かれているのが、厚生労働省のガイドラインである。2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として作られ、2015年に「人生の最終段階における医療」へ、2018年に「医療・ケア」へと改称された2。
このガイドライン三版と解説編二種、および検討会報告書を全文検索しても、「法的拘束力」「拘束」「立法」「罰則」の語は一度も現れない。
近いのは解説編の注記だけである。
特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面については…引き続き検討していく必要があります
「拘束力が無い」と書いてあるのではない。自分の法的地位について、肯定も否定もしていない。
ただし「何も定めていない」わけではない※撤回。このガイドラインが定めているのは、誰が最終的な法的責任を負うかではなく、どういう手続で決めるかである。多専門職種からなる医療・ケアチームで判断すること、本人との話し合いを繰り返し行うこと、合意が得られない場合には複数の専門家からなる話し合いの場を別に設けること、そして内容を文書にまとめておくこと——いずれも本文に明記されている2。
制度が引き受けていないのは、法的責任の明確化のほうである。決定の手続は、チームに委ねられている。
(発出の形式も軽い。2013年に介護老人保健施設へ周知されたときの文書は、通知ですらなく事務連絡だった。)
効き目は、別のところから来ている
ではこのガイドラインが無力かというと、そうではない。診療報酬と介護報酬の算定要件に埋め込まれている3。
ターミナルケアの実施については、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえ、患者本人及びその家族等と話し合いを行い…
在宅ターミナルケア加算の要件である。平成30年度改定で療養病棟と地域包括ケア病棟に入り、令和2年度に拡大、令和4年度にがん患者指導管理料と在宅療養支援診療所・病院へ広がった。
法律は無い。だが支払の条件にはなっている。——ここまでは、日本の制度によくある形だ。
想定が外れた①——空白は、選ばれたものだった
私はここを「日本は立法を怠ってきた」と書くつもりだった。そう書けない数字があった。
2012年度の厚生労働省の調査が、終末期医療の判断基準をどう示すべきかを、当事者に直接訊いている4。
判断基準の示し方は、法律ではなく専門家によって作成されたガイドライン等で示すべきであるとした者が、医師80.2%、看護師77.9%、施設介護職員74.0%に達した。
「法律に定めるべきである」は、医師14.6%、看護師14.1%、介護職員14.8%。
ただし公開時の本文は、ここから「現場の専門職が、五倍以上の差で、そちらを選んでいる」と結んだ。分母を取り違えている※訂正。
この80.2%は条件付きの下位設問である。先行する問6で「詳細な基準を示すべき」または「大まかな基準を作り、詳細な方針は医師またはチームが患者・家族と検討して決定すればよい」と答えた者だけが進む設問で、医師の n は535である(問6の全回答者は921)。つまり80.2%が指しているのは535人の中の割合であり、医師回答者全体に対しては約46.6%にあたる。
そしてもう一つ、問6の段階で医師の36.0%は「一律な基準は必要なく、医師またはチームが患者・家族と十分に検討して方針を決定すればよい」と答えている。この人たちは基準の示し方を訊かれていない。
正確に書けばこうなる。基準が必要だと考えた医師の中では、法律より専門家のガイドラインを選ぶ回答が圧倒的だった。「専門職全体が法の空白を選んだ」ではない。
これは理解できる選択でもある。法律にすれば線を引かねばならず、線を引けば手前と向こうで扱いが変わる。ただし「法律にすれば個別事情に合わせる余地が消える」というのは、二者択一の立て方である※訂正。法律は結果を定めるとは限らない。説明、記録、代理人の指定、相談の手続といった最低条件だけを定めることもできる。
そのうえで問いは残る。その選択の帰結を、誰が引き受けているのか。
そして、この設問は平成29年度以降の調査から消えている。専門職が法律より自主基準を選んだという事実は、その後測られていない。
会話は起きているのか——数字がとても薄い
では、その会話は実際に行われているのか。ここで、このサイトが何度も当たってきた形にまた当たった。
| 年度 | 対象 | 有効回答 | 回収率 |
|---|---|---|---|
| 平成25年 | 5,000 | 2,179 | 43.6% |
| 平成29年度 | 6,000 | 973 | 16.2% |
| 令和4年度 | 6,000 | 3,000 | 50.0% |
日本のACPをめぐって最もよく引かれる数値の多くが、回収率16.2%・有効回答973人の調査から来ている。厚生労働省自身が「平成29年度調査とは調査期間や回収率等が異なる点に留意する必要がある」と注記している。
「事前指示書の作成は8.1%」の中身
この8.1%の分母は、全回答者ではない。
平成29年度調査の問7は「事前指示書を作成しておくことに賛成か」を訊き、賛成と答えた642人にだけ問7-1「実際に書面を作成していますか」と続けている。8.1%はその642人に対する割合である。
実数はおよそ52人。6,000人に配って973人が答え、そのうち642人が賛成し、その中の52人が作成していた——という数字である。
そして令和4年度調査には、実際に作成しているかを訊く設問そのものが無い。あるのは「作成しておくことについてどう思うか」(賛成69.8%)だけだ。つまり今、全国の作成率を示す数値は存在しない。
一つだけ、はっきりしていること
話し合ったことがない人(n=2,057)に理由を訊いた結果は、はっきりしている。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 話し合うきっかけがなかったから | 62.8% |
| 知識が無いため何を話し合っていいか分からないから | 31.0% |
| 話し合う必要性を感じていないから | 21.8% |
| 話し合いたくないから | 2.1% |
これは複数回答である※訂正。31.0%は「何を話し合っていいか分からない」、21.8%は「必要性を感じていない」とも答えている。だから「避けているのではない」と言い切るのは強い。書ける範囲は——積極的な拒否(2.1%)より、「きっかけがなかった」という回答がはるかに多かった、である。そして「人生会議」という愛称を知らない人が72.1%である。
では、きっかけを作る仕事は誰のものか※訂正。(公開時は「制度の側では誰も引き受けていない」と書いたが、正確ではない。ガイドラインは話し合いの繰り返しを求め、診療報酬の算定要件はそれを支払の条件にし、かかりつけ医機能報告も継続的な相談対応を報告項目に置いている。)
書ける範囲はこうである。制度は話し合いを要求している。だが、誰がいつ開始する責任を負うのか、どの資源でそれを支えるのかは、具体化されていない。
誰に話していたのか——1998年、医師の58.8%が「まず家族に」
会話の相手は、ずっと本人だったわけではない。日本には「家族に先に伝える」慣行があった。
だがこれを検証しようとして、資料の壁に当たった。がんの告知率の推移を示す公的統計は、事実上存在しない。患者調査に告知の項目は無く、受療行動調査が測るのは「医師から説明を受けた」であって告知ではない。全国がん登録は罹患と生存率のみ。院内がん登録が「病名の告知の有無」を項目化したのは2016年診断例からである。
内閣府(旧総理府)の世論調査も見た。健康・医療分野の全90調査(昭和24年〜令和7年)に、告知を尋ねた設問は一度も無い7。「がん対策に関する世論調査」は平成19年が初回で、その調査票にも「告知」の語は現れない。
全国調査が一つだけ実在したことは分かった。平成4年度の人口動態社会経済面調査(悪性新生物)——死亡票をもとにした全国の遺族調査で、概要論文の表題が「がん死亡者の告知・生活の質・説明と同意」である8。
だが読めない。報告書は紙媒体のみでデジタル化されておらず、概要論文も国立国会図書館デジタルコレクションで館内限定・個人送信対象外。この統計は現在 e-Stat にも厚生労働統計一覧にも無い。廃止されている。
(ネット上には「1990年前後の告知率は15%」といった数値が流通している。一次資料に到達できなかったので、使わない。)
読める系列が、一つだけある
告知率ではないが、同じことを別の角度から測った公的調査がある。厚生省・厚生労働省が繰り返してきた終末期医療の調査が、医師にこう訊いている9。
治る見込みがない病気に罹患した場合、その病名や病気の見通し(治療期間、余命)について、まずどなたに説明をしますか
| 医師の回答 | 1998年 | 2003年 | 2008年 |
|---|---|---|---|
| 本人に説明する | 3.4% | 5.9% | 8.7% |
| 本人の状況を見て判断する | 35.6% | 41.5% | 56.5% |
| 家族に説明する | 58.8% | 50.9% | 33.6% |
1998年の時点で、医師の6割近くが「まず家族に」と答えている。そして10年で33.6%まで下がった。
これは告知率ではなく、「まず誰に説明するか」の自己申告である。そこは区別したい。だが「誰が会話の相手だったか」を測った公的な系列としては、これが唯一のものだ。
そしてこの設問も、その後の調査には無い。——専門職が法律よりガイドラインを選んだという設問が消えたのと、同じである。
想定が外れた②——「家で死にたいのに病院で死ぬ」は支えられていない
終末期の議論には、ほぼ必ずこの枠組みが出てくる。私も使うつもりだった。最新の公的調査は、これを支えていない6。
| 想定病状 | 医療機関 | 介護施設 | 自宅 |
|---|---|---|---|
| 末期がん | 51.7% | 14.7% | 32.2% |
| 慢性の重い心臓病 | 54.1% | 13.9% | 29.6% |
| 認知症 | 29.7% | 53.1% | 14.7% |
| 1年以内に死に至る | 41.6% | 10.0% | 43.8% |
末期がんでは、一般国民の過半数が医療機関を選んでいる。自宅は32.2%。自宅が最多になるのは、むしろ医療・介護従事者のほうである(医師47.7%)。
死亡場所の実際も見ておく10。
| 1951 | 2005 | 2024 | |
|---|---|---|---|
| 病院 | 9.1% | 79.8% | 64.4% |
| 自宅 | 82.5% | 12.2% | 16.4% |
| 老人ホーム | — | — | 12.2% |
自宅から病院への逆転は1977年(病院45.7%・自宅44.0%)。病院は2005年にピークを打ち、2024年は64.4%まで下がっている。
だがこの低下は、自宅回帰ではない。自宅は2022年の17.4%をピークに、2023年17.0%・2024年16.4%と2年続けて下がっている。一方、老人ホームは8.6%から12.2%へ一貫して上がっている。病院からの移行先の主役は、家ではなく施設である。
(希望と実際を同じ調査が測っているわけではない。希望は意識調査、実際は人口動態統計で、別々の出所を繋いだ推計である。それでも、方向が合っていないことは言える。)
渡される道具①——SPIKES は、自分を「経験的データから完全には導かれていない」と書いている
ここから、手渡される側を見る。悪い知らせを伝える手順として最も広く教えられているのが SPIKES である11。
六段階の出所は、原著に三つ書いてある。1998年の米国臨床腫瘍学会年次総会での非公式アンケート(シンポジウム参加700名のうち500名がリモコンで回答)、専門家コンセンサス、そして著者らの臨床観察である。
測定されたアウトカムは一つだけだった。医師の自信である。ワークショップの前後で紙の質問票を配った。対照群は無い。
そして論文自身が、こう書いている。
We recognize that the SPIKES protocol is not completely derived from empirical data, and whether patients will find the approach recommended as useful is still an important question.
FUTURE DIRECTIONS には、こうある。
We plan to determine empirically whether the SPIKES protocol can reduce the stress of breaking bad news for the physician, and also improve the interview and the support as experienced by the patient.
この論文は、自らを一度も evidence-based とも validated とも呼んでいない。本文(参考文献を除く)に evidence は0回、randomi- も0回。validat- は6回出るが、すべて validating statements(共感的応答の一種)の意味であって、プロトコルの検証を指してはいない。
誠実に書かれている。問題は、その誠実さが、渡される途中で消えることのほうだ。
25年後の、SPIKESだけについてではない答え
その後どうなったかについて、Cochrane のレビューがある12。17のランダム化比較試験、医療者1,240名。
ただしこれはSPIKESの25年後の答えではない※訂正。このレビューが束ねているのは多様なコミュニケーション研修であり、レビュー自身がどの種類が有効かは判断できないとしている。そして後で「患者側が動いた唯一の研修」として挙げる Fujimori 2014 も、この17試験に含まれている。
医療者側は変わる。開かれた質問が増え(very low-certainty)、共感が増え(moderate-certainty)、事実のみを述べることが減る(low-certainty)。
患者側については、差が確認できていない。
There were no differences between the groups with regard to HCP ‘burnout’ … nor with regard to patient satisfaction or patient perception of the HCPs communication skills
著者らの結論はこうである。
We found no evidence to support a beneficial effect of CST on HCP ‘burnout’, the mental or physical health and satisfaction of people with cancer.
公開時の本文は、これを「患者側は動かない」と書いた。エビデンスの確実性が very low の「差を確認できなかった」を、無効果と読み替えている※訂正。証拠が無いことは、効果が無いことではない。
渡される道具②——五段階の直線的な順序は、原典が否定している
ここが、調べていて最も驚いたところだった。
Kübler-Ross の五段階説は「否認→怒り→取引→抑うつ→受容と順に進む」ものとして教えられている。原典が否定しているのは、この直線的な順序のほうである※訂正——段階が互いを置き換えながら所定の順序で進む、という理解である。五段階という枠組みそのものを撤回しているのではない13。
The following diagram demonstrates how these stages do not replace each other but can exist next to each other and overlap at times.
「これらの段階は互いを置き換えるのではなく、並存し、ときに重なりうる」。第XI章にある。
受容に至らない人がいることも書いてある(第VII章)。否認が一度きりの通過点ではなく「later on from time to time」繰り返し現れることも書いてある(第III章)。
五段階が遺族の悲嘆へ本格的に拡張されたのは、2005年の『On Grief and Grieving』である。Kübler-Ross が2004年に没した翌年の、没後出版だった。その冒頭にも、こうある14。
The stages … have been very misunderstood over the past three decades. They were never meant to help tuck messy emotions into neat packages. … Not everyone goes through all of them or goes in a prescribed order.
そもそも著者自身が、これを研究と呼んでいない。序文にこうある。
It is not meant to be a textbook … nor is it intended as a complete study of the psychology of the dying… I am simply telling the stories of my patients.
第II章には、始まりの経緯が書かれている。
How do you do research on dying, when the data is so impossible to get? When you cannot verify your data and cannot set up experiments?
検証できないと認めたうえで、代わりに患者に教わることにした、というのが出発点である。200人以上への面接。全文に statistic も、control group も、questionnaire も、coding も出てこない。
つまり「検証されていない理論が広まった」のではない。原典が言っていないことが、理論の名で広まった。
「実証的検証」も、五段階を検証していない
段階説の実証的検証として最もよく引かれるのが、2007年の JAMA 論文である15。これが検証したのは、Kübler-Ross の五段階ではない。
論文自身が書いている——検証対象は Jacobs (1993) が統合したモデルで、その四段階は numbness-disbelief、separation distress、depression-mourning、recovery である。
取引(bargaining)は、検証対象に一度も入っていない。代わりに yearning(思慕)が置かれている。
結果のほうは、しばしば引かれるとおりである。
counter to the stage theory, disbelief was not the initial, dominant grief indicator. Acceptance was the most often endorsed item.
受容は、段階の終点ではなく、最初から最も多く支持されていた。
だが、著者らの結論は段階説に肯定的である。「各指標のピークで見れば the data fit the hypothesized sequence exactly」とし、抄録は「正常な悲嘆の段階の同定は理解を深める」と結ぶ。しかも著者らは、項目の選び方についてこう認めている。
We chose to present the items that fit most closely with the stage indicators illustrated in the literature.
この論文を「段階説を否定した研究」として引用するのは、誤りである。
では、五段階そのものを検証した研究はあるのか。取引を含む実際の五段階を、遺族ではなく自らの病に直面している患者に当てた研究が一つある(メキシコ、がん患者の女性120名)16。
The sequential model of five stages of grief showed a poor fit to the data. … A non-sequential model had a good fit to the data.
米国国立がん研究所の現行の専門家向け版も、こう書いている17。
this model has limited empirical support … reconceptualized from stages of grief to domains of grief
「段階」ではなく「領域」へ。——原典に戻っただけとも言える。
そして臨床家964名への調査では、17.9%がいまだに段階説を悲嘆に用いており「誤った情報を持つ」と判定された18。
ここで、私は一度止まった
「だから段階説は有害だ」と書きたくなった。批判の代表的な論文も、そう書いている19。
Most disturbingly, the expectation that bereaved persons will, even should, go through stages of grieving can be harmful to those who do not.
だが、これを確定情報として渡すことはできない。
同じ批判をしてきた研究グループ自身が、その後「段階説を信じること」と害の関連を測る尺度を作って検証している。結果はこうだった20。
Convergent validity analyses indicated that belief in stages may not be associated with adverse outcomes.
(著者らは女性・高学歴に偏った便宜標本という限界を明示している。)
つまり「段階説は実証されていない」は堅固だが、「段階説を信じることが実害を生む」のほうは、まだ実証が追いついていない。
ここで断定すれば、私はいま批判しているその失敗を、そのまま繰り返すことになる。未検証の主張を、確定したものとして次の人に渡す——それが、この記事が辿ってきた経路そのものだった。
動いたのは、患者の選好から逆算したものだった
暗い話ばかりではない。患者のアウトカムが動いた研修が、一つある。日本発である21。
腫瘍内科医30名を無作為化し、患者1,192名(回答率84.6%)で評価したランダム化比較試験。
Patients who met with oncologists after they had undergone the CST were significantly less depressed than those who met with oncologists in the CG (P = .027). However, the CST program did not affect patient satisfaction with oncologists’ style of communication.
患者の抑うつは動いた。満足度は動かなかった。
そしてこのプログラムは SPIKES ではない。日本のがん患者の選好調査から逆算して作られた SHARE モデルである。同じ研究グループの系統的レビューは、出発点をこう書いていた22。
The optimal manner of communicating bad news … is unknown.
分からない、と認めるところから始めて、患者に訊いた。
ただし、この試験が示しているのは抑うつの p=.027 と満足度の無差までである※訂正。効果量と信頼区間を示さずに、「患者の選好から逆算したから動いた」と機序まで断定することはできない。選好起点の設計と、それ以外の設計を比較した試験ではない。書ける範囲は——患者の選好から設計されたSHAREでは、患者の抑うつに改善が示された。ただし一試験であり、選好起点だったことが効果の理由かは検証されていない。
しかもレビューは、選好が一様でないことを示している。若い患者・女性・高学歴の患者ほど詳しい情報と情緒的支援を望む。そして——
Asian patients were shown to prefer that relatives be present when receiving bad news more than Westerners do and to prefer to discuss their life expectancy less than Westerners.
日本のがん外来患者529名の研究は「日本の患者の選好は米国の患者とはいくらか異なる」と結論しており、その著者に SPIKES の筆頭著者が加わっている。
前回の記事と、形は似ている。PERC の1.8%が害と益から逆算されたように、SHARE は患者の選好から逆算されている。ただし前回の記事でも書いたとおり、この対比を規則として立てるには証拠が足りない。言えるのは、参照先を患者側に置いた設計が一つあり、その一試験で患者側のアウトカムが動いた、というところまでである。
総合診療にとって
三つ、持ち帰れることがある。
第一に、日本は終末期の決定を専用法ではなく、多職種チームによる反復的な対話に委ねている※撤回。
(公開時の本文は、ここを「制度が引き受けていないから個人に渡される」「現在それを乗せられているのは、その場にいる一人である」と結んだ。撤回する。厚生労働省のガイドラインは、多専門職種のチームで判断すること、本人との話し合いを繰り返すこと、合意困難時には複数の専門家からなる話し合いの場を設けること、文書にまとめることを、いずれも明記している。「一人に載せている」と書くには、チームの配置状況、倫理相談の体制、時間と報酬、主治医の負担といった実装側のデータが別に要る。私はそれを持っていない。)
制度が引き受けていないのは法的責任の明確化のほうであり、そして——その対話を誰がいつ開始し、どの資源で支えるかについて、制度も測定も十分でない。基準の示し方について、必要だと考えた医師の多数が法律よりガイドラインを選んだこと自体は事実である。だが、その選択の帰結として何が現場に乗るのかは、まだ測られていない。
第二に、渡されている道具の来歴を、一度は辿ったほうがいい。SPIKES の原著は誠実に限界を書いていた。Kübler-Ross の原典は段階の直線性を明確に否定していた。どちらも、渡される途中で形が変わっている。変えたのは原著者ではない。
第三に、「きっかけが無い」が62.8%で、「話し合いたくない」は2.1%である。これは総合診療にとって、悪い知らせではないと思う。積極的に拒否されているわけではない。開始の責任と機会が、制度のどこにも具体的に割り当てられていない。そして継続的に同じ人を診る立場は、機会を作れる数少ない場所である。
ただし、機会を作ったあとに何を話すかについて、確立された手順はまだ無い。あるのは、患者に訊いてから作ったものだけが少し動いた、という一つの試験である。
最後に、この記事では扱いきれなかったものを一つ書いておく。「正常な悲嘆」と「病的な悲嘆」を分ける線そのものである。
遷延性悲嘆症は DSM-5-TR と ICD-11 の両方に載っているが、二つは同じ時計を測っていない23。DSM-5-TR が数えるのは死別からの経過時間(成人12か月)、ICD-11 が数えるのは悲嘆反応そのものが持続した期間(6か月以上)である。同じ集団に当てると、有病率は4.7%と5.4%に分かれ、ICD-11 を死別からの時間として適用すると6.8%になる。
これは、閾値の話である。この記事の主題からは外れるので、ここに書き置くにとどめる。
(なおこの記事は、「終末期の会話を制度上の誰が担うのか」と「SPIKES・五段階説・SHAREが伝承の途中でどう変形したか」という、性格の違う二本を一本に収めている。後者は別稿として立てたほうが、両方とも読みやすくなるはずである。)
訂正 CORRECTIONS
公開後に直したこと。本文は直したうえで、何をどう変えたかをここに残している。本文中の※ が、直した箇所を指す。
- 撤回「制度が引き受けず、その場にいる臨床家一人に載せている」を撤回した2026-09-01 · hitori引用している厚生労働省のガイドライン自身と衝突していた。同ガイドラインは、多専門職種からなる医療・ケアチームで判断すること、本人との話し合いを繰り返し行うこと、合意が得られない場合には複数の専門家からなる話し合いの場を別に設けること、内容を文書にまとめておくことを明記している。制度が引き受けていないのは法的責任の明確化のほうであり、決定の手続はチームに委ねられている。「実務では一人に落ちる」と主張するには、チームの配置状況、倫理相談の体制、時間と報酬、主治医の負担といった実装側のデータが別に要る。中心命題を「日本は終末期の決定を専用法ではなく多職種チームによる反復的な対話に委ねている。ただし、その対話を誰がいつ開始し、どの資源で支えるかについては制度も測定も十分でない」に組み替えた。
- 訂正医師80.2%の分母を取り違えていた2026-09-01 · chosa-535この80.2%は条件付きの下位設問である。先行する問6で「詳細な基準を示すべき」または「大まかな基準を作り、詳細な方針は医師またはチームが患者・家族と検討して決定すればよい」と答えた者だけが進む設問で、医師のnは535である(問6の全回答者は921)。医師回答者全体に対しては約46.6%にあたる。また問6の段階で医師の36.0%は「一律な基準は必要ない」と答えており、この人たちは基準の示し方を訊かれていない。「現場の専門職が、五倍以上の差で法の空白を選んだ」を撤回し、「基準が必要だと考えた医師の中では、法律より専門家のガイドラインを選ぶ回答が圧倒的だった」に改めた。
- 訂正「日本には終末期を定めた法律が無い」という一般化を限定した2026-09-01 · hou-naie-Govの条文検索で確かめられるのは、指定した語が法律・政令・省令の条文に無いことだけである。判例も、一般的な説明義務や同意原則も、刑法・民法上の評価もこの検索の外にある。「終末期医療の決定手続や事前指示の効力を包括的に定めた専用法・明文規定が確認できない」に限定した。あわせて「法律にすれば個別事情に合わせる余地が消える」という二者択一の立て方も改めた。法律は結果を定めるとは限らず、説明・記録・代理人の指定・相談の手続といった最低条件だけを定めることもできる。
- 訂正「避けているのではない」という断定を弱めた2026-09-01 · sakete-inai62.8%は複数回答であり、31.0%は「何を話し合っていいか分からない」、21.8%は「必要性を感じていない」とも答えている。「積極的な拒否(2.1%)より、『きっかけがなかった』という回答がはるかに多かった」に改めた。
- 訂正「きっかけを作る仕事を、制度の側では誰も引き受けていない」を撤回した2026-09-01 · dare-moガイドラインは話し合いの繰り返しを求め、診療報酬の算定要件はそれを支払の条件にし、かかりつけ医機能報告も継続的な相談対応を報告項目に置いている。「制度は話し合いを要求している。だが、誰がいつ開始する責任を負うのか、どの資源でそれを支えるのかは具体化されていない」に改めた。
- 訂正CochraneレビューをSPIKESの25年後の答えとして扱い、結果も無効果と読み替えていた2026-09-01 · cochrane-spikesこのレビューが束ねているのは多様なコミュニケーション研修であり、レビュー自身がどの種類が有効かは判断できないとしている。そして「患者側が動いた唯一の研修」として後段で挙げるFujimori 2014も、この17試験に含まれている。したがって「一般研修では患者は動かないが、SHAREだけは動いた」という対比は成立しない。また「患者側は動かない」も、エビデンスの確実性が very low の「差を確認できなかった」を無効果と読み替えたものである。証拠が無いことは効果が無いことではない、と明記した。節見出しも「25年後の、SPIKESだけについてではない答え」に改めた。
- 訂正「五段階は、原典で否定されている」を正確にした2026-09-01 · godankai原典が否定しているのは、段階が互いを置き換えながら所定の順序で進むという直線的な理解である。五段階という枠組みそのものを撤回しているのではない。節見出しも「五段階の直線的な順序は、原典が否定している」に改めた。
出典 SOURCES
- 1e-Gov 法令検索(終末期関連語の全文検索)デジタル庁 · 2026 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 法律・政令・省令の条文に対する全文検索の結果、「事前指示」「リビングウィル」「リビング・ウィル」「尊厳死」「安楽死」「終末期」「延命措置」「延命治療」「アドバンス・ケア・プランニング」はいずれも0件であった。「人生の最終段階」のみ3件該当し、その内訳は①社会保障制度改革推進法(平成24年法律第64号)第6条「特に人生の最終段階を穏やかに過ごすことができる環境を整備すること」(政府の措置の列挙)、②持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律(平成25年法律第112号)第4条第5項の「…環境の整備を行うよう努めるものとする」(政府への努力義務)、③医療法施行規則別表第八のかかりつけ医機能報告の報告項目「患者が望む人生の最終段階における医療の提供等に係る適切な意思決定支援の実施状況」である。いずれも患者の権利や手続を定めた規定ではない。なお e-Gov は告示・通知を収録していないため、この結果は法律・政令・省令の層についてのものである
- 2人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン厚生労働省(平成30年3月14日公表) · 2018 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として策定され、2015年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、2018年に現名称へ改称された。2007年版・2015年版・2018年版の本体、2007年版・2018年版の解説編、および2018年の検討会報告書を全文検索したところ、「法的拘束力」「拘束」「立法」「罰則」の語は一度も現れない。すなわち自らの法的地位について肯定も否定もしていない。2018年解説編の注記に「特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面については、ガイドライン策定以降、このような側面から大きく報道されるような事態は生じていませんが、引き続き検討していく必要があります」とあるのが最も近い記述である。策定の契機は平成18年3月に報道された富山県射水市民病院の人工呼吸器取り外し事件とされる。なお2013年に介護老人保健施設へ周知された際の文書は通知ではなく事務連絡(厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室)であった
- 3診療報酬(在宅ターミナルケア加算等におけるガイドライン参照の算定要件)厚生労働省 · 2024 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 在宅ターミナルケア加算の算定要件に「ターミナルケアの実施については、厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』等の内容を踏まえ、患者本人及びその家族等と話し合いを行い」と定められている。ガイドライン自体に法的強制力は無いが、支払の条件としては機能している。この要件化は平成30年度改定の療養病棟入院基本料・地域包括ケア病棟入院料に始まり、令和2年度改定で対象が拡大、令和4年度改定でがん患者指導管理料および在宅療養支援診療所・病院へ広がった(中医協 総-3 令和5年12月8日)。介護報酬側にも同様の要件がある。なお本稿では、令和6年度改定時点で確認した文言と拡大の経緯までを記す。令和8年度改定(2026年6月1日適用)における点数の水準および文言の異同は、本稿では確認していない
- 4人生の最終段階における医療に関する意識調査(平成24年度・終末期医療に関する調査)厚生労働省 終末期医療に関する意識調査等検討会 · 2013 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 終末期医療の判断基準の示し方について「判断基準の示し方は、法律ではなく専門家によって作成されたガイドライン等で示すべきであるとした者が、医師80.2%、看護師77.9%、施設介護職員74.0%に達した」と報告する。「法律に定めるべきである」は医師14.6%、看護師14.1%、施設介護職員14.8%であった(n=535/864/507、条件付き下位設問)。またガイドラインを「知らない」と答えた者は医師33.8%、看護師41.4%、施設介護職員50.2%(n=921/1,434/880)。なお同報告書の本文は看護師を41.8%と記しており、図表と本文が食い違っている(図表値を採った)。この判断基準の示し方に関する設問は、平成29年度以降の同種調査には存在しない
- 5人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書(平成29年度)厚生労働省 · 2018 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 一般国民は6,000人を対象とし、有効回答は973(回収率16.2%)。前回の平成25年調査は5,000人に対し2,179(43.6%)であった。事前指示書について、問7で「作成しておくことに賛成である」と答えた者にのみ問7-1「実際に書面を作成していますか」を訊いており、その分母は一般国民 n=642、作成している8.1%・作成していない91.3%である。したがって実数はおよそ52人であり、全回答者に対する割合ではない。家族等と話し合ったことがあるかについては、詳しく話し合っている2.7%・一応話し合っている36.8%・話し合ったことはない55.1%・無回答5.4%。厚生労働省は令和4年度報告書において「平成29年度調査とは調査期間や回収率等が異なる点に留意する必要がある」と注記している
- 6人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書(令和4年度)厚生労働省(受託:NTTデータ経営研究所、令和5年12月) · 2023 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 一般国民は6,000人を対象に3,000の回答を得た(回収率50.0%)。死が近い場合に受けたい医療について家族等と「詳しく話し合っている」1.5%、「一応話し合っている」28.4%、「話し合ったことはない」68.6%。話し合ったことがない者(n=2,057)の理由は、話し合うきっかけがなかったから62.8%、知識が無いため何を話し合っていいか分からないから31.0%、話し合う必要性を感じていないから21.8%、話し合いたくないから2.1%。「人生会議」を知らない者は72.1%(平成29年度は75.5%)。事前指示書については「作成しておくことについてどう思うか」(賛成69.8%)を訊くのみで、実際に作成しているかを訊く設問は存在しない。最期を迎えたい場所は、末期がんを想定した場合に医療機関51.7%・介護施設14.7%・自宅32.2%、慢性の重い心臓病で医療機関54.1%・介護施設13.9%・自宅29.6%、認知症で医療機関29.7%・介護施設53.1%・自宅14.7%、1年以内に死に至ると想定した場合に医療機関41.6%・介護施設10.0%・自宅43.8%(選択肢は3択)。法律で定めることについては、定めてほしい20.4%・定めなくてもよい36.4%・定めるべきでない8.1%・わからない33.3%。なお平成29年度調査とは設問文が変わっており、平成29年度が「どのくらい話し合ったことがありますか」(経験)を訊いたのに対し令和4年度は「詳しく話し合っていると思いますか」(現状認識)を訊いている。この調査は委託調査であり、調査の概要ページに根拠法令および統計法への言及が無い
- 7内閣府 世論調査アーカイブ(健康・医療分野)内閣府(旧総理府)※例示は「医療における倫理に関する世論調査」平成2年10月調査 · 1990 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 健康・医療分野の全90調査(昭和24年〜令和7年)を通覧したところ、がんの告知を尋ねた設問は一度も存在しない。「がん対策に関する世論調査」は平成19年が初回であり、その調査票(全国20歳以上3,000人、有効回収1,767人、回収率58.9%)にも「告知」の語は現れない。最も近いのが「医療における倫理に関する世論調査」(平成2年10月18〜28日、全国20歳以上、層化2段無作為抽出、標本3,000人、有効回収2,209人、回収率73.6%)で、そこでの設問はインフォームド・コンセントまでにとどまる——「あなた自身の病気の治療において、仮にいくつかの治療方針があり、医師からその説明を受けたとした場合、最終的にはどのように治療方法を決めることになると思いますか」に対し、最終的には医師の判断にまかせると思う58.6%、家族などの判断にまかせると思う9.6%、自分で判断すると思う26.8%
- 8人口動態社会経済面調査報告 悪性新生物(平成4年度)厚生省大臣官房統計情報部 編、1994年、107p ※国立国会図書館所蔵。紙媒体のみでデジタル化されておらず、本稿は原表に到達できていない · 1994 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 指定統計「人口動態調査」の付帯調査として、死亡票をもとに実施された全国の遺族調査。平成4年度のテーマが悪性新生物であり、概要を報告した論文の表題は松栄達朗ほか「がん死亡者の告知・生活の質・説明と同意——平成4年度人口動態社会経済面調査(悪性新生物)の概要」『厚生の指標』40(7):19-27, 1993 である。すなわちこの調査が告知を測っていたことは書誌から確定する。ただし報告書は紙媒体のみでデジタル化されておらず、『厚生の指標』の当該論文も国立国会図書館デジタルコレクションで館内限定・個人送信対象外であるため、本稿は数値に到達できていない。この統計は現在 e-Stat に収録がなく、厚生労働統計一覧にも掲載がない(廃止済み)。なおインターネット上で流布する「1990年前後の告知率15%」等の数値は、いずれも一次資料に到達できなかったため本稿では用いない
- 9終末期医療に関する調査(治る見込みのない病気について、まず誰に説明するか)厚生労働省 第1回終末期医療のあり方に関する懇談会 資料3(平成20年10月27日) · 2008 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 医療従事者への設問は「あなたの担当している患者(入所者)が治る見込みがない病気に罹患した場合、その病名や病気の見通し(治療期間、余命)について、まずどなたに説明をしますか。(○は1つ)」。医師の回答は、平成10年が本人に説明3.4%・本人の状況を見て判断35.6%・家族に説明58.8%、平成15年が5.9%・41.5%・50.9%、平成20年(平成20年3月実施)が8.7%・56.5%・33.6%。分母と回収率は、平成10年が医師3,104人に対し1,577(50.8%)、平成15年が3,147人に対し1,363(43.3%)、平成20年が3,201人に対し1,121(35.0%)。いずれも郵送・無作為抽出である。この数値は厚生労働省「終末期医療に関する調査等検討会報告書」(平成16年7月)の本文とも一致する——「医師、介護施設職員の過半数は、まず、『家族に説明する』と回答している(医51%(59%)…)※( )内は前回=平成10年調査」。なお同じ表の看護職員の平成20年の行は前回から不自然に逆行しており、抽出上のずれか設問変更の可能性があるため本稿では用いない。また検討会の系譜として、昭和62年に始まった末期医療に関するケアの在り方の検討会は文献調査のみで実態調査を行っておらず、医師への設問は平成10年調査が最初である
- 10人口動態統計 確定数 死亡 上巻 第5表 死亡の場所別にみた年次別死亡数・百分率厚生労働省(e-Stat 統計表表示ID 0003411652、1951年〜2024年) · 2024 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 2024年の総死亡数1,605,378人に対し、病院1,033,675(64.4%)、診療所19,148(1.2%)、介護医療院・介護老人保健施設66,131(4.1%)、老人ホーム196,003(12.2%)、自宅262,883(16.4%)、その他27,538(1.7%)。自宅から病院への逆転は病院単独と自宅の比較で1977年(病院45.7%・自宅44.0%、前年は43.5%・46.3%)、病院+診療所と自宅の比較では1976年に起きている。1951年は病院9.1%・自宅82.5%。病院は2005年の79.8%がピーク。自宅は2019年13.6%から2022年17.4%まで上昇したのち、2023年17.0%・2024年16.4%と2年続けて低下している。一方で老人ホームは8.6%から12.2%へ一貫して上昇しており、病院からの移行先は自宅ではなく施設である
- 11SPIKES—A Six-Step Protocol for Delivering Bad News: Application to the Patient with CancerThe Oncologist 5(4):302-311 (Baile WF, Buckman R, Lenzi R, Glober G, Beale EA, Kudelka AP) · 2000 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: SPIKES の原著。六段階は S—SETTING UP the Interview、P—ASSESSING THE PATIENT'S PERCEPTION、I—OBTAINING THE PATIENT'S INVITATION、K—GIVING KNOWLEDGE AND INFORMATION TO THE PATIENT、E—ADDRESSING THE PATIENT'S EMOTIONS WITH EMPATHIC RESPONSES、S—STRATEGY AND SUMMARY。導出は三本立てで、①1998年の米国臨床腫瘍学会年次総会での非公式アンケート(シンポジウム参加700名のうち500名がリモコンで回答)、②専門家コンセンサス(「Does the SPIKES Protocol Reflect the Consensus of Experts?」という見出しのもとに「Very few studies have sampled patient opinion as to their preferences for disclosure of unfavorable medical information」と述べる)、③著者らの臨床観察である。測定されたアウトカムは医師の自信のみで、「before and after the workshop we used a paper and pencil test to measure physician confidence」と記し、対照群は無い。論文自身が限界を明記する——「We recognize that the SPIKES protocol is not completely derived from empirical data, and whether patients will find the approach recommended as useful is still an important question」。FUTURE DIRECTIONS には「We plan to determine empirically whether the SPIKES protocol can reduce the stress of breaking bad news for the physician, and also improve the interview and the support as experienced by the patient」とある。本文(参考文献リストを除く)に evidence は0回、randomi- も0回出現し、validat- は6回すべて validating statements(共感的応答の一種)の意味であってプロトコルの検証を指さない。またステップ3の冒頭に「While a majority of patients express a desire for full information about their diagnosis, prognosis, and details of their illness, some patients do not」とある
- 12Communication skills training for healthcare professionals working with people who have cancerCochrane Database of Systematic Reviews 2018;7:CD003751 (Moore PM, Rivera S, Bravo-Soto GA, Olivares C, Lawrie TA) · 2018 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 2002年初版の第3次更新(2018年5月までの検索)。17のランダム化比較試験を含み、参加した医療者は1,240名(医師612名うちレジデント151名、看護師532名、混合96名)、うち10試験がメタ解析に寄与した。医療者側では、介入群のほうが開かれた質問を使い(SMD 0.25, 95%CI 0.02 to 0.48、very low-certainty)、共感を示し(SMD 0.18, 95%CI 0.05 to 0.32、moderate-certainty)、事実のみを述べることが少なかった(SMD −0.26, 95%CI −0.51 to −0.01、low-certainty)。一方で「There were no differences between the groups with regard to HCP 'burnout' (low-certainty evidence) nor with regard to patient satisfaction or patient perception of the HCPs communication skills (very low-certainty evidence)」。著者らの結論は「We found no evidence to support a beneficial effect of CST on HCP 'burnout', the mental or physical health and satisfaction of people with cancer」。なお PMC6457800 を辿ると2013年の pub3 版が返るため、版の取り違えに注意を要する(2018年版の PMCID は PMC6513291)
- 13On Death and DyingNew York: Macmillan(Kübler-Ross E)※初版1969年。版によりページ番号が異なるため章で参照した · 1969 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 五段階説の原典。標本については第III章に「Among the over two hundred dying patients we have interviewed」、第XI章に「We have had over two hundred interviews over a period of almost three years」とある。全文に statistic/statistical、quantif-、control group、questionnaire、sample、coding、methodolog- のいずれも出現せず、統計検定・対照群・コーディング体系・評価者間信頼性の記述は無い。著者自身が序文で「It is not meant to be a textbook on how to manage dying patients, nor is it intended as a complete study of the psychology of the dying… I am simply telling the stories of my patients」と述べ、第II章では「How do you do research on dying, when the data is so impossible to get? When you cannot verify your data and cannot set up experiments?」と、形式的研究が不可能であることを認めた上での代替として始めたことを記す。段階の直線性については第XI章に「The following diagram demonstrates how these stages do not replace each other but can exist next to each other and overlap at times」、第VIII章に「These means will last for different periods of time and will replace each other or exist at times side by side」とあり、順に進むという主張は原典で明確に否定されている。第VII章には受容に至らない患者について「There are a few patients who fight to the end, who struggle and keep a hope that makes it almost impossible to reach this stage of acceptance」。第III章には否認が繰り返し現れることについて「Denial, at least partial denial, is used by almost all of the patients, not only during the first stages of illness or following confrontation, but also later on from time to time」。なお第IX章 The Patient's Family に「Family members undergo different stages of adjustment similar to the ones described for our patients」とあり、家族への適用は1969年版に既に副次的な形で存在する。ただし1969年版には段階を「飛ばす」「戻る」という明示的な記述は無く、主張されているのは並存と重なりである。ウェブ上には第VIII章の一文から「defense mechanisms in psychiatric terms, coping mechanisms to deal with extremely difficult situations. These means」を省略した改変引用が流通しており、原文では will last の主語は These means(対処機制)である
- 14On Grief and Grieving: Finding the Meaning of Grief Through the Five Stages of LossNew York: Scribner(Kübler-Ross E, Kessler D)ISBN 9780743266284、LCCN 2005042694 · 2005 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 五段階を遺族の悲嘆へ本格的に拡張した著作。Kübler-Ross は2004年8月24日に没しており、本書は没後の刊行である。冒頭に「The stages have evolved since their introduction, and they have been very misunderstood over the past three decades. They were never meant to help tuck messy emotions into neat packages. They are responses to loss that many people have, but there is not a typical response to loss, as there is no typical loss. Our grief is as individual as our lives. Not everyone goes through all of them or goes in a prescribed order」とある。また「they are not stops on some linear timeline in grief」とも記す。なお流通している引用には help を落としたものがあるが、実スキャンおよび査読論文の再録はいずれも help を含む
- 15An empirical examination of the stage theory of griefJAMA 297(7):716-723 (Maciejewski PK, Zhang B, Block SD, Prigerson HG; Yale Bereavement Study) · 2007 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 段階説の実証的検証としてよく引かれる論文。575名に接触し317名(55.1%)が同意、解析対象は233名。自然死による死別のみを対象とし、複雑性悲嘆の基準を満たす58名を除外している。83.8%が配偶者、97.0%が白人。重要なのは、検証されたのが Kübler-Ross の五段階ではないことである。本文は「Based on Bowbly and Parkes' and Kübler-Ross' theories, Jacobs synthesized and illustrated the hypothesized stage theory of grief, in which the normal response to loss progresses through the following grief stages: numbness-disbelief, separation distress (yearning-anger-anxiety), depression-mourning, and recovery」と述べており、検証対象は Jacobs (1993) の統合モデルである。したがって bargaining(取引)は検証対象に入っておらず、yearning が代置されている。結果については「In terms of absolute frequency, and counter to the stage theory, disbelief was not the initial, dominant grief indicator. Acceptance was the most often endorsed item. Evidently, a high degree of acceptance, even in the initial month postloss, is the norm in the case of natural deaths」。ただし著者らの総合判断は段階説に肯定的で、「when rescaled and examined for each indicator's peak, the data fit the hypothesized sequence exactly」とし、抄録も「Identification of the normal stages of grief following a death from natural causes enhances understanding」と結ぶ。すなわちこの論文を「段階説を否定した研究」として引用するのは誤りである。また著者ら自身が項目の選択について「We chose to present the items that fit most closely with the stage indicators illustrated in the literature」と認めている。なお正誤表が出ている(JAMA. 2007;297(20):2200)
- 16Contraste empírico del modelo de cinco fases de duelo de Kübler-Ross en mujeres con cáncerPensamiento Psicológico 13(1) (Moral de la Rubia J, Miaja Ávila M) · 2015 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: Kübler-Ross の実際の五段階(bargaining を含む)を、遺族ではなく自らの病に直面している患者に対して検証した数少ない研究。メキシコのがん患者の女性120名を対象とし、「The sequential model of five stages of grief showed a poor fit to the data. The stages of grief were independent of time… A non-sequential model had a good fit to the data」と結論する。Kübler-Ross の原集団に最も近い設計で、逐次モデルは棄却された
- 17Grief, Bereavement, and Coping With Loss (PDQ®) – Health Professional VersionNational Cancer Institute (NCI) · 2026 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 米国国立がん研究所の現行の専門家向け版。五段階説について「The most well-known model was developed for medical student education and used a series of clinical interviews with terminally ill patients. In this model, the five stages of grief were identified as denial, anger, bargaining, depression, and acceptance. However, this model has limited empirical support. After initial development, the model was reconceptualized from stages of grief to domains of grief, with the understanding that an individual may move back and forth among the domains without any expectation of a predefined path」と記す
- 18Revising ruling discourses: The griefwork evidence-to-practice gap and the mental health workforceDeath Studies 47(10):1136-1145 (McCoyd JLM, Goldblatt Hyatt E, Hennessy K, Akincigil A) · 2023 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: メンタルヘルス臨床家964名への調査。「We surveyed 964 mental health clinicians… Only 330 (34.2%) of the clinicians were deemed knowledgeable; 462 (47.9%) were questionable; and 172 (17.9%) were misinformed, continuing to use Kübler-Ross' stage theory for grief」。すなわち原典の記述と現在の学術的評価が、臨床家に届いていない
- 19Cautioning Health-Care Professionals: Bereaved Persons Are Misguided Through the Stages of GriefOmega (Westport) 74(4):455-473 (Stroebe M, Schut H, Boerner K) · 2017 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 段階説への包括的な批判。「Science and practice seem deeply stuck in the so-called stage theory of grief. Health-care professionals continue to 'prescribe' stages. … Major concerns include the absence of sound empirical evidence, conceptual clarity, or explanatory potential. It lacks practical utility for the design or allocation of treatment services, and it does not help identification of those at risk or with complications in the grieving process. Most disturbingly, the expectation that bereaved persons will, even should, go through stages of grieving can be harmful to those who do not. Following such lines of reasoning, we argue that stage theory should be discarded by all concerned (including bereaved persons themselves); at best, it should be relegated to the realms of history」。なお同名タイトルで検索すると誌上コメント欄(Omega 75(1):92-94)が先にヒットするため注意を要する
- 20Toward the assessment of belief in stages of grief: Construction and validation of a scaleDeath Studies(オンライン先行公開、2026年6月12日)(Avis KA, Boelen PA, Schut H, Stroebe M, Missler M) · 2026 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 段階説を批判してきた Stroebe らのグループ自身が、段階説への信念を測る尺度を開発して害との関連を検証した研究。「Convergent validity analyses indicated that belief in stages may not be associated with adverse outcomes」と報告する。著者らは女性・高学歴に偏った便宜標本という限界を明示している。すなわち「段階説は実証されていない」は堅固だが、「段階説を信じることが実害を生む」のほうは実証が追いついていない。Stroebe 2017 の can be harmful は主として理論的・臨床観察的な主張である
- 22Preferences of cancer patients regarding communication of bad news: a systematic literature reviewJapanese Journal of Clinical Oncology 39(4):201-216 (Fujimori M, Uchitomi Y) · 2009 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 24研究を対象とした系統的レビュー。「The optimal manner of communicating bad news to patients so that physicians can create maximal understanding in patients and facilitate their psychological adjustment is unknown」と述べる。選好は四つの要素(setting、伝え方、情報の内容と量、情緒的支援)から成り、「patients' preferences are associated with demographic factors. Younger patients, female patients and more highly educated patients consistently expressed a desire to receive as much detailed information as possible and to receive emotional support. Asian patients were shown to prefer that relatives be present when receiving bad news more than Westerners do and to prefer to discuss their life expectancy less than Westerners」。なお日本のがん外来患者529名を対象とした研究(Fujimori M, Parker PA, Akechi T, Sakano Y, Baile WF, Uchitomi Y. Psycho-Oncology 2007;16(7):617-625, doi:10.1002/pon.1102)は「Japanese cancer patients' preferences for communication when receiving bad news differ somewhat from those of American patients」と結論しており、著者に SPIKES 筆頭著者の Baile WF が加わっている
- 23Prolonged grief disorder in ICD-11 and DSM-5-TR: differences in prevalence and diagnostic criteriaFrontiers in Psychiatry 15:1266132 (Treml J, Linde K, Brähler E, Kersting A) · 2024 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 遷延性悲嘆症の二つの診断基準を比較した研究。「The DSM-5-TR specifies that the loss of a loved one must have occurred at least 12 months ago before a diagnosis can be made. In ICD-11, however, the grief reaction must persist for an atypically long period of time following the loss, with a minimum of 6 months. This wording indicates an alternative application of the duration criterion, that is, that the grief response in itself and not just the bereavement period should last for at least six months」。すなわち両者は同じ時計を測っていない——DSM-5-TR は死別からの経過時間、ICD-11 は悲嘆反応そのものが持続した期間である。有病率はDSM-5-TR基準で4.7%、ICD-11基準で5.4%、ICD-11を死別からの時間として適用すると6.8%になる。またDSM-5-TRが明示的な診断アルゴリズム(中核症状2つのうち1つ以上、随伴症状8つのうち3つ以上)を持つのに対し、ICD-11は症状数の要件を定めない類型論的アプローチを採る
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元になったノート STUDY NOTES
姉妹サイト study.yonapo.com の学習ノート。本稿の問いはここから出ている。ノートは講義の要約であり、記事の出典は別に一次資料へ当たっている。