構造から診る02 アクセスと提供体制/JAPANEUROPEOTHER
本人が決められないとき、誰が決めるのか
意思決定能力を法的な competence と臨床的な capacity に分ける説明を採ろうとして、原典を読むとその区別は普遍的ではなかった。代わりに見えてきたのは、日本の制度の分断である。認知症支援にはAppelbaum型の四要素があり、後見事務にはMCA型の四要素がある。一方、一般医療では「本人の意思を確認できない場合」の後の手順は示されても、その前段階を全国共通に判定する法定テストはない。研究や精神科入院には個別の代諾ルールがある。政府自身が2019年の通知で、第三者の医療同意には法令上の一般ルールが存在せず慣習で行われていると書いている。欠けているのは概念ではなく、場面をまたいで接続する一般ルールだった。
ダイジェスト解説 VIDEO
前回、説明のつかない症状に「置き場が無い」ことを見た。分類の章が割れ、標榜に科名が無く、診療報酬では身体傷病名に翻訳しないと存在できなかった。
今回はもっと重い場面である。本人が決められないとき、誰が決めるのか。
この記事は、一つの整理から始めるつもりだった。Competence は法的な地位で、裁判所が決め、永続的である。Capacity は臨床的な判断で、医師が行い、決定ごとに変わる。——そう書けば、日本の制度がどちらを持っていてどちらを持っていないかを、きれいに並べられる。
その整理を、原典が否定した。
私の前提は、三方向から崩れた
四要素の典拠にしようとしていたのは、Appelbaum の2007年の総説である。その論文の、四要素が出てくるすぐ前に、括弧書きがあった1。
(The terms “competence” and “capacity” are used interchangeably in this article, since the oft-cited distinctions between them — competence is said to refer to legal judgments, and capacity to clinical ones — are not consistently reflected in either legal or medical usage.)
「よく引かれる区別だが、法律用語法にも医学用語法にも一貫して反映されていない」——この分野の第一人者が、自分の最も引かれる論文で、そう宣言していた。
英国の法律を見ると、方向がむしろ逆だった。Mental Capacity Act 2005 で法的な用語は capacity のほうである2。同法の実務指針(301頁)を機械的に数えると、capacity が約1,496回に対し、competence 系はわずか8回。しかもその内訳は代理人の職務遂行能力と、16歳未満の Gillick competence だけで、成人の意思決定能力の意味では一度も使われていない。
(この語数は資料収集の過程で機械的に数えたもので、私自身は原文で数え直していない。版にも依存する。桁は動かないと考えているが、正確な回数として引かないほうがよい。)
さらに、decision-specificity の割り当てが逆になっている文献もある。Buchanan は capacity を連続量、competence を二値の法的地位としたうえで、「Legal competence is specific to the task at hand」と書いている。決定ごとに変わるのは competence の側だ、と。
つまりこの区別は、便利な用語上の慣例ではあっても、法域や文献をまたいで普遍的に成立する定義ではない※訂正。法域によって、法的用語がどちらの語かが入れ替わる。(公開時は「どちらが正しいかという問いに、答えが無い」と書いたが、言い過ぎだった。Appelbaum が否定したのは「必ずそう使われている」という主張であって、二つを区別すること自体の有用性ではない。米国の臨床では今も legal competence と clinical decision-making capacity の区別が説明上よく用いられる。)
だからこの記事は、語の対立では書けない。代わりに書けるのは、日本の制度の形である。
そもそも、能力は測るたびに違う値が出る
日本の話をする前に、測定の側を見ておきたい。
熟練した医師5名に、同一人物の同一のビデオ記録を見せて同意能力を判定させた研究がある3。
Physicians as a group achieved 98% judgment agreement for the controls but only 56% judgment agreement for the mild AD patients. The physician group kappa for controls was 1.00 … the physician group kappa of .14 (P = .44) for AD patients
健常対照では κ = 1.00。軽度アルツハイマー病では κ = 0.14——偶然と区別がつかない。
医師が不注意なのではない。少なくとも軽度アルツハイマー病という判定の難しい集団では、一致度が著しく低かった※訂正。(公開時は「グレーゾーンでだけ崩壊する」と一般化したが、根拠は軽度ADの一研究である。)
同じ研究グループの後続研究では、特定の法的基準に基づいて判定させた場合、AD患者について κ = 0.39〜0.57 の有意な一致が得られている4。ただし1997年と2000年は別のサンプルであり、「基準を指定したことによって改善した」という因果推論はできない。公開時の本文は「後に原因を特定している」と書いたが、そこまでは言えない。
もっと直接的な研究がある。中等度認知症の40名に、三つの評価尺度を同時に当てたものだ5。
| MacCAT-T | HCAI | CCTI | |
|---|---|---|---|
| 理解 | 48.7% | 63.2% | 33.3% |
| 認識(appreciation) | 94.6% | 48.7% | 51.3% |
| 論理的思考 | 75.7% | 86.8% | 70.0% |
| 選択の表明 | 94.6% | 81.6% | 97.5% |
(正常範囲内と判定された割合)
同じ40人である。認識の能力が「保たれている」割合が、尺度を変えると 94.6% にも 48.7% にもなる。
著者らの結論は、はっきりしている。
Legal standards were operationalized differently across the three instruments for the capacities of appreciation and reasoning.
appreciation という同じラベルでも、尺度によって操作的定義が大きく異なり、同じ患者の分類結果も大きく変わった※訂正。(公開時は「別々のものを測っている」と断定したが、原論文が示したのは同じ法的基準が尺度間で異なる形に操作化されていたということである。またこの「正常範囲」は対照群の統計分布を用いた研究用のカットオフであって、法的な能力の有無の確定判定ではない。)言えるのは、能力の判定は測定法から独立した値ではない、ということである。
臨床の現場ではどうか。系統的レビューによれば、内科入院患者の26%(18-35%)が能力を欠くが、臨床医が気づくのはそのうち42%(30-53%)である6。「能力なし」と判定したときの精度は高い(LR+ 7.9)。
このレビューで特に目立った問題は、能力を欠く患者の半数以上が臨床医に認識されていないという過小認識である※訂正。(公開時は「誤りは一方向——見落とす側——に偏っている」と書いたが、LR+ と感度だけからそこまでは言えない。)
日本の研究も同じ方向を示している。岡山大学の研究で、健忘型軽度認知障害の患者について、MacCAT-T を用いたチーム判定は12例を能力なしとし、特別な面接を経ない主治医の臨床判断は5例だった7。論文は「clinical physicians tended to evaluate the competency of aMCI patients in a generous manner」と書いている。12例のほうが真の基準だったとまでは言えない。著者らの解釈は「通常の臨床判断はより寛容だった」である。
これは日本が遅れているという話ではない。測定は、基準を指定しなければ安定しない。
ここで一点、公開時の記述を更新する※訂正。私は Appelbaum が「学会による正式な実践指針は現在存在しない」と書いていることを引いたが、それは2007年時点の記述である。その後、少なくとも英国では2018年10月に NICE が Decision-making and mental capacity(NG108)を公表しており、Mental Capacity Act 2005 を実装する形で、16歳以上の意思決定能力の評価と支援を扱っている8。2026年の現在形として「どこにも指針が無い」とは書けない。むしろこの整備は、日本との比較の材料になる。
日本には、四要素が二種類ある
ここからが本題である。
日本は、意思決定能力の概念を持っていないのではない。二つ持っている。
厚生労働省の認知症ガイドライン(2018年、2025年に第2版)はこうである9。
本人の意思決定能力は、説明の内容をどの程度理解しているか(理解する力)、またそれを自分のこととして認識しているか(認識する力)、論理的な判断ができるか(論理的に考える力)、その意思を表明できるか(選択を表明できる力)によって構成されるとされる。
理解・認識・論理的思考・選択の表明。Appelbaum の四要素である。
最高裁判所・厚生労働省・日弁連が合同で出した後見事務ガイドライン(2020年)はこうである10。
(1) 意思決定に必要な情報を理解すること(情報の理解) (2) 意思決定に必要な情報を記憶として保持すること(記憶保持) (3) 意思決定に必要な情報を選択肢の中で比べて考えることができること(比較検討) (4) 自分の意思決定を口頭又は手話その他の手段を用いて表現すること(意思の表現)
理解・記憶保持・比較検討・表現。これは英国 Mental Capacity Act 第3条の四要素(understand / retain / use or weigh / communicate)の直訳である。
認識(appreciation)が無く、記憶(retain)がある。
並べる。
| 厚生労働省 認知症GL | 最高裁ほか 後見事務GL | |
|---|---|---|
| ① | 理解する力 | 情報の理解 |
| ② | 認識する力 | 記憶保持 |
| ③ | 論理的に考える力 | 比較検討 |
| ④ | 選択を表明できる力 | 意思の表現 |
| 由来 | Appelbaum(米国系) | MCA 2005(英国系) |
同じ「意思決定能力」という日本語の下に、由来と用途の異なる二つの機能的枠組みが導入されている※訂正。
(公開時は「別々の測定系が二つある」と書いたが、この二つは同じ対象に当ててどちらかを選ぶ診断尺度ではない。MCA は四つの機能だけでなく、心・脳の機能障害がありそのために当該の決定を行えない、という二段階の法的テストであり、能力の推定、支援を尽くすこと、愚かな選択だけで能力なしとしないことも法定の原則である。一方 Appelbaum の四要素は、治療同意能力を構造化する臨床・法倫理の枠組みである。)
前の記事で、私は医療と介護の境目を「二つの測定系の継ぎ目」と書いた。医療区分と要介護認定。同じ人が跨いでも、変わるのは人ではなく物差しのほうだ、と。決める力についても、似た形が見える。
そして Moye らの研究が示していたのは、これが名前だけの違いではないということだ。操作的定義が違えば、appreciation の正常率は 94.6% にも 48.7% にもなる。
その二つとも、医療の代行決定を扱わない
問題はここからである。
厚生労働省の認知症ガイドラインには、脚注にこう書いてある。
本ガイドラインは…本人の意思決定能力が欠けている場合の、いわゆる「代理代行決定」のルールを示すものではない。…この点は本ガイドラインの限界と位置付けられる。
後見事務ガイドラインにも、脚注にこうある。
後見人等は医療行為に関する同意権は有していない
四要素を持つ二つの文書は、どちらも医療の代行決定を自ら射程外と宣言している※訂正。(正確には、この二文書は一般医療における治療同意能力の判定と第三者代諾の全国共通ルールを定めたものではない、ということである。医療・福祉の関係者が意思決定支援の場面で参照することまで否定するものではない——厚生労働省の成年後見ポータルも、医療機関等との連携場面でこれらのガイドラインを案内している。)
では、医療を正面から扱う文書はどうか。人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン11。
(2)本人の意思の確認ができない場合 ① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
このガイドラインは、日本の医療の意思決定について最も重要な公的文書である。そしてそれは「本人の意思の確認ができる/できない」という二値のスイッチで動いている。
そのどちらかを判定する基準が、書かれていない。四要素も、尺度も、誰が判定するかも、本文には無い。
四要素を持つ文書は一般医療の代諾ルールを定めず、医療を正面から扱う文書は四要素を持たない。「本人の意思の確認ができない」と判断した後の手順は比較的詳しい。一方、そこへ移行するための、一般医療に共通する法定の機能テストが置かれていない。
政府自身が、「ルールが無い」と書いている
推測ではない。2019年の厚生労働省医政局総務課長通知に、そのまま書いてある12。
現時点では、このような場合における本人以外の第三者の決定・同意について、法令等で定められている一般的なルールはなく、社会通念や各種ガイドラインに基づき、個別に判断されているものと考えられます。
そして脚注に、実態が一語で書かれている。
慣習的に家族による決定・同意が行われている
同じ通知は、医療機関にこう注意している。
現行制度では、成年後見人等の役割としていわゆる医療同意権までは含まれないことについて十分留意し、成年後見人等に同意書へのサインを強要することがないよう注意して下さい。
比較のために置いておくと、米国では多くの州が家族代諾の順位を法律で定めている——配偶者、成人の子、親、きょうだい、その他の親族1。日本の「家族等」は、解説編で意図的に法的カテゴリではないものとして定義されている。「法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みます」。
これは1999年の立法時に、意識的に切り離されたものである。法務省民事局長の国会答弁13。
医療契約は代理できますが医療行為に伴う医的侵襲、つまり体に対する侵害は御本人だけが決めるべきことではないか。それで、本人に意思がない場合には、これは医療全般の問題として考えるべきである。…したがって、これは成年後見と関連して議論すべき問題ではないというのが私どもの結論であったわけです。
「医療全般の問題として考えるべきである」と切り離されて、27年が経っている。
能力判定より、代諾者の側が細かく書かれている
もっとも、「日本には何も無い」というのは正確ではない。特定の場面では、誰が同意できるかが詳しく定められている。
精神保健福祉法を見てほしい。ここで一つ訂正が要る——「成年後見人に医療同意権が一切ない」は不正確である14。
同法第五条第2項は「家族等」に後見人又は保佐人を含めている。そして第三十三条(医療保護入院)は——
その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくても…その者を入院させることができる。
成年後見人・保佐人には、医療保護入院への同意権が明文で存在する。民法上の一般的な医的侵襲への同意権は無いが、精神科入院についてはある。
構造を見ておきたい。任意入院を定める第二十条は「努めなければならない」という努力義務にとどまる。そして指定医が「第二十条の規定による入院が行われる状態にない」と判定したうえで、「家族等」のいずれかの同意があれば、本人の同意なしに入院させることができる。
ここで公開時の本文は二つ、書きすぎていた※訂正。
第一に、「返事をしなければ同意したものとみなされる」は初回の入院についてではない。第8項が定めているのは入院期間の更新についてで、厚生労働省令で定める日までに家族等のいずれからも不同意の意思表示を受けなかったときは、更新への同意を得たものとみなすことができる、という規定である。
第二に、指定医の「第二十条の規定による入院が行われる状態にない」という判定を、事実上の能力判定と呼ぶのは避けたい。これは医療保護入院の法定要件であって、Appelbaum や MCA の言う意思決定能力と同じものだとは確認できない。ただしその要件の判定基準が法律上定義されていないことは変わらない。
同じ形は研究の側にもある。人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針は、代諾者を定義し、選定順位まで示している15。
① 親権者又は未成年後見人 ② 研究対象者の配偶者、父母、兄弟姉妹、子・孫、祖父母、同居の親族… ③ 研究対象者の代理人
同じ人が同じ日に、研究に参加するときには代諾者の選定方針が示されていて、手術を受けるときには誰が決めるか法令上決まっていない。
ただし、二点を区別しておきたい※訂正。研究の側を規律しているのは法律だけではない。この指針は文部科学省・厚生労働省・経済産業省の告示であり、代諾者の選定順位を示しているのはそのガイダンスである(臨床研究法の対象研究には法律・省令の規定がある)。正確には、研究領域では国の倫理指針等が代諾者の選定方針まで具体化している一方、一般診療の医療同意には全国一律の第三者同意ルールがない、である。(なおこの指針は本稿公開後の令和8年8月27日に一部改正されており、出典も改正後の本文に更新した。)
そして研究の側でも、条件は「インフォームド・コンセントを与える能力を欠くと客観的に判断される場合」と書かれているだけで、その判断の基準は示されていない。
公開時の本文は、ここを「日本法は、能力の評価という問題を、繰り返し身分の問題に置き換えてきた」と結んだ。撤回する※撤回。精神保健福祉法でも、指定医による法定要件の判定と家族等の同意の両方が要る。研究倫理指針でも、本人が能力を欠くと客観的に判断されること、その後に代諾者を選ぶこと、という二段階である。能力の評価が身分に置き換えられているのではない。
見えているのはこうである。本人の側の閾値は抽象的にしか規定されていない一方、その閾値を越えた後に誰が関与できるかは、場面によっては詳しく規定されている。
財産の側には、物差しがある
対比しておきたい。財産については、日本は物差しを持っている。
民法は能力を三段階に刻んでいる16——「事理を弁識する能力を欠く常況」(後見)、「著しく不十分」(保佐)、「不十分」(補助)。
ここで「常況」という語に注意したい。状態が持続していることを要件にしている。英国 MCA 第2条(2)は「permanent か temporary かを問わない」と書く。
ただし「正反対」と書いたのは、比べる対象を取り違えていた※訂正。民法の「事理を弁識する能力を欠く常況」は、成年後見という継続的な法的地位を開始する条件である。MCA が判定するのは、特定の決定を、その時点で行えるかである。正反対なのではなく、時間軸が違う。日本の成年後見の開始は継続的な状態を問い、MCA の能力判定は個々の決定とその時点を問う。この違いのほうが本質的である。
実際の分布も、それを裏づけている17。令和7年12月末で利用者は259,901人。
| 類型 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 後見 | 180,828 | 69.6% |
| 保佐 | 58,162 | 22.4% |
| 補助 | 18,078 | 7.0% |
| 任意後見 | 2,833 | 1.1% |
最も包括的で、最も「状態」寄りの類型が7割。
そして判定の実際はこうである。
成年後見関係事件の終局事件のうち、鑑定を実施したものは、全体の約3.4%
正式な鑑定まで行う事件は3.4%にとどまる※訂正。(公開時は「96.6%の事件が、精神鑑定なしで判定されている」と書き、さらにその96.6%が診断書の記載だけで判定されているかのように続けた。撤回する。鑑定以外にも医師の診断書、本人情報シート、家庭裁判所調査官による調査、本人面接、親族・関係者の資料がありうる。また「提出された診断書等の記載に基づいて分類している」という注記は、統計上の開始原因の分類方法の説明であって、裁判官が何を証拠に審判したかの説明ではない。)
言えるのは、多くの事件はそれ以外の資料と調査に基づいて審判されている、というところまでである。
その診断書が医師に問うのは、「契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができるか」である。判定の根拠欄は見当識・意思疎通・理解力・記憶力で、検査欄には長谷川式と MMSE が置かれている。四要素はどこにも出てこない。
申立ての動機を見ると、この制度が何のためにあるかが分かる。預貯金等の管理・解約 93.4%、身上保護 74.2%、介護保険契約 45.7%、不動産の処分 36.3%。医療は項目として存在しない。
最後に、一つだけ例外がある。民法第九百七十三条。
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。 2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において…能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。
少なくとも今回確認した制度の中で、民法973条は「この行為をする、この時点の能力」を医師が明示的に証明する、際立って具体的な規定だった※訂正。(公開時は「遺言にしか存在しない」と書いたが、日本法全体を網羅検索した根拠は持っていない。)
総合診療にとって、これが何を意味するか
三つ書いておきたい。
第一に、日本に無いのは概念ではなく、接続である。四要素はある。二種類ある。連続量であることも、支援者の力で変わることも、公的文書に明記されている(認知症ガイドラインの脚注は「本人の意思決定能力は本人の個別能力だけではなく、意思決定支援者の支援力によって変化する」とまで書いている)。だがその概念を持つ文書は医療を扱わず、医療を扱う文書はその概念を持たない。書かれていないのは基準ではなく、基準と場面のあいだの線である。
第二に、地域で診る立場は、この継ぎ目の上に立っている。財産の物差しは家庭裁判所が持ち、精神科入院には家族等の同意という手続があり、研究の代諾には選定方針がある。そのどれでもない場面——外来で、在宅で、施設で、この人はいま自分で決められるのか——を全国共通に判定する仕組みが無い。
ここで公開時の本文は「継続的にその人を診てきた者にしか材料が無い」と書いた。強すぎる※訂正。能力評価に長期の診療関係が必須なわけではない。英国の NICE も、能力評価はその決定が必要になる時点で行い、必要なら心理職や言語聴覚士等の専門的助言を得ることを想定している8。
書ける範囲はこうである。継続的に診てきた医療者は、時点ごとの評価だけでは得にくい材料——本人のふだんの認知の水準、話し方の癖、過去に表明された価値観、変動の幅——を持ちうる。判定は基準を指定しなければ κ=0.14 になる。そして基準を指定するのは、いま誰の仕事でもない。
第三に、これはこのシリーズの背骨に、これまでとは別の角度から当たる。四つの分野が否定してきたのは、問題を個人の属性に帰す説明だった。意思決定能力は、いかにも「その人の中にある量」に見える。だが Moye の40人は、尺度を変えるだけで正常率が2倍に振れた。日本の公的文書は「支援者の支援力によって変化する」と書いている。
意思決定能力は、人に固定された一つの属性ではない。何を決めるか、いつ決めるか、どの情報をどう提示するか、どの支援を受けられるかによって、評価が変わりうる機能である※訂正。(公開時は「測り方と支え方を含んだ関係の性質である」と書いたが、MCA も Appelbaum も、能力は人が有するか欠くかとして評価する。変わるのはその評価が決定ごと・時点ごと・支援次第だという点である。)
そして日本の特徴は、この概念が無いことではない。認知症の意思決定支援には Appelbaum 型の四要素があり、後見事務には MCA 型の四要素とアセスメントの手順がある。研究と精神科入院には、それぞれ独自の代諾・同意のルールがある。欠けているのは、それらをつなぐ一般ルール——一般診療に横断的に適用される、法定・全国共通の判定基準——である。
「本人の意思の確認ができない場合」——ガイドラインはそこから先を丁寧に書いている。書かれていないのは、その手前をどう判定するかである。
訂正 CORRECTIONS
公開後に直したこと。本文は直したうえで、何をどう変えたかをここに残している。本文中の※ が、直した箇所を指す。
- 撤回「日本法は能力の評価を身分の問題に置き換えてきた」を撤回した2026-09-01 · mibun精神保健福祉法でも、指定医による法定要件の判定と家族等の同意の両方が要る。研究倫理指針でも、本人が能力を欠くと客観的に判断されること、その後に代諾者を選ぶこと、という二段階である。能力の評価が身分に置き換えられているわけではない。「本人の側の閾値は抽象的にしか規定されていない一方、その閾値を越えた後に誰が関与できるかは、場面によっては詳しく規定されている」に改め、節見出しも「日本法は、能力の評価を『身分』で代替してきた」から「能力判定より、代諾者の側が細かく書かれている」に改めた。
- 訂正医療保護入院の「返事をしなければ同意したものとみなされる」を更新時に限定した2026-09-01 · minashi精神保健福祉法第三十三条第8項が定めているのは入院期間の更新についてであり、初回の入院についてではない。厚生労働省令で定める日までに家族等のいずれからも不同意の意思表示を受けなかったときは更新への同意を得たものとみなすことができる、という規定である。あわせて、指定医の「第二十条の規定による入院が行われる状態にない」という判定を事実上の能力判定と呼ぶのも避けた。これは医療保護入院の法定要件であって、AppelbaumやMCAの言う意思決定能力と同じものだとは確認できない。
- 訂正「96.6%の事件が精神鑑定なしで判定されている」という書き方を撤回した2026-09-01 · 96-6最高裁の統計から言えるのは、終局事件のうち鑑定を実施したのは3.4%というところまでである。鑑定以外にも医師の診断書、本人情報シート、家庭裁判所調査官による調査、本人面接、親族・関係者の資料がありうる。また「提出された診断書等の記載に基づいて分類している」という注記は統計上の開始原因の分類方法の説明であって、裁判官が何を証拠に審判したかの説明ではない。「正式な鑑定まで行う事件は3.4%にとどまり、多くの事件はそれ以外の資料と調査に基づいて審判されている」に改めた。
- 訂正「遺言にしか存在しない」という排他的な主張を撤回した2026-09-01 · yuigon日本法全体を網羅的に検索した根拠は持っていない。「少なくとも今回確認した制度の中で、民法973条は『この行為をする、この時点の能力』を医師が明示的に証明する、際立って具体的な規定だった」に改めた。
- 訂正「学会による正式な実践指針は現在存在しない」を2026年の現在形で使っていた2026-09-01 · guideline-2007これはAppelbaumの2007年時点の記述である。その後、少なくとも英国では2018年10月にNICEが Decision-making and mental capacity (NG108) を公表しており、Mental Capacity Act 2005 を実装する形で16歳以上の意思決定能力の評価と支援を扱っている。2020年には能力評価のquality standardも出ている。現在形で「どこにも指針が無い」とは書けない。
- 訂正「後に原因を特定している」という因果表現と、「グレーゾーンでだけ崩壊する」という一般化を撤回した2026-09-01 · kappa1997年と2000年は別のサンプルであり、「基準を指定したことによって一致度が改善した」という因果推論はできない。「後続研究では、特定の法的基準に基づいて判定させた場合にκ=0.39〜0.57の有意な一致が得られた」という記述に改めた。またκ=0.14は軽度アルツハイマー病という判定の難しい集団についての一研究の結果であり、「少なくともこの集団では一致度が著しく低かった」に限定した。
- 訂正「別々のものを測っている」という断定を限定した2026-09-01 · moye原論文が示したのは、同じ法的基準が三つの尺度の間で異なる形に操作化されていたということである。またこの「正常範囲」は対照群の統計分布を用いた研究用のカットオフであって、法的な能力の有無の確定判定ではない。「appreciationという同じラベルでも、尺度によって操作的定義が大きく異なり、同じ患者の分類結果も大きく変わった。能力の判定は測定法から独立した値ではない」に改めた。
- 訂正「誤りは一方向——見落とす側——に偏っている」を撤回した2026-09-01 · sessums陽性尤度比と感度だけからそこまでは言えない。「このレビューで特に目立った問題は、能力を欠く患者の半数以上が臨床医に認識されていないという過小認識である」に改めた。あわせて岡山大学の研究についても、MacCAT-Tによるチーム判定の12例が真の基準だったとまでは言えないため、著者らの「通常の臨床判断はより寛容だった」という解釈までに限定した。
- 訂正二つの四要素を「別々の測定系」と呼んだのを改めた2026-09-01 · nishuこの二つは同じ対象に当ててどちらかを選ぶ診断尺度ではない。MCAは四つの機能だけでなく、心・脳の機能障害がありそのために当該の決定を行えない、という二段階の法的テストであり、能力の推定、支援を尽くすこと、愚かな選択だけで能力なしとしないことも法定の原則である。一方Appelbaumの四要素は治療同意能力を構造化する臨床・法倫理の枠組みである。「同じ日本語の下に、由来と用途の異なる二つの機能的枠組みが導入されている」に改めた。
- 訂正「どちらが正しいかという問いに答えが無い」を限定した2026-09-01 · youtaiAppelbaumが否定したのは「必ずそう使われている」という主張であって、二つを区別すること自体の有用性ではない。米国の臨床では今も legal competence と clinical decision-making capacity の区別が説明上よく用いられる。「この区別は便利な用語上の慣例ではあっても、法域や文献をまたいで普遍的に成立する定義ではない」に改めた。
- 訂正「四要素を持つ文書は医療を扱わない」を限定した2026-09-01 · iryou-atsukawanai正確には、この二文書は一般医療における治療同意能力の判定と第三者代諾の全国共通ルールを定めたものではない、ということである。医療・福祉の関係者が意思決定支援の場面で参照することまで否定するものではない。厚生労働省の成年後見ポータルも、医療機関等との連携場面でこれらのガイドラインを案内している。
- 訂正民法の「常況」とMCAの temporary を「正反対」としたのを改めた2026-09-01 · joukyou比べる対象を取り違えていた。民法の「事理を弁識する能力を欠く常況」は成年後見という継続的な法的地位を開始する条件であり、MCAが判定するのは特定の決定をその時点で行えるかである。正反対なのではなく時間軸が違う。日本の成年後見の開始は継続的な状態を問い、MCAの能力判定は個々の決定とその時点を問う、という違いに書き改めた。
- 訂正研究の代諾について、法律と倫理指針を区別し、指針を最新版に更新した2026-09-01 · shishin-2026研究の側を規律しているのは法律だけではない。この指針は文部科学省・厚生労働省・経済産業省の告示であり、代諾者の選定順位を示しているのはそのガイダンスである(臨床研究法の対象研究には法律・省令の規定がある)。「研究領域では国の倫理指針等が代諾者の選定方針まで具体化している一方、一般診療の医療同意には全国一律の第三者同意ルールがない」に改めた。あわせて、この指針が本稿公開後の令和8年8月27日に一部改正されているため、出典を改正後の本文に更新した。
- 訂正「継続的にその人を診てきた者にしか材料が無い」を弱めた2026-09-01 · keizoku能力評価に長期の診療関係が必須なわけではない。英国のNICEも、能力評価はその決定が必要になる時点で行い、必要なら心理職や言語聴覚士等の専門的助言を得ることを想定している。「継続的に診てきた医療者は、時点ごとの評価だけでは得にくい材料——本人のふだんの認知の水準、話し方の癖、過去に表明された価値観、変動の幅——を持ちうる」に改めた。
- 訂正「能力は測り方と支え方を含んだ関係の性質である」を書き直した2026-09-01 · kankeiMCAもAppelbaumも、能力は人が有するか欠くかとして評価する。変わるのはその評価が決定ごと・時点ごと・支援次第だという点である。「意思決定能力は、人に固定された一つの属性ではない。何を決めるか、いつ決めるか、どの情報をどう提示するか、どの支援を受けられるかによって、評価が変わりうる機能である」に改めた。あわせて結論を「日本に欠けているのは意思決定能力という概念そのものではなく、一般診療に横断的に適用される法定・全国共通の判定基準という、場面をまたいで接続する一般ルールである」という形に整理した。
出典 SOURCES
- 1Assessment of Patients' Competence to Consent to TreatmentNew England Journal of Medicine 357(18):1834-1840 (Appelbaum PS) · 2007 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 用語法について「Although incompetence denotes a legal status that in principle should be determined by a court, resorting to judicial review in every case of suspected impairment of capacity would probably bring both the medical and legal systems to a halt. (The terms 'competence' and 'capacity' are used interchangeably in this article, since the oft-cited distinctions between them — competence is said to refer to legal judgments, and capacity to clinical ones — are not consistently reflected in either legal or medical usage.)」と明記する。四要素は Table 1 で「Communicate a choice」「Understand the relevant information」「Appreciate the situation and its consequences」「Reason about treatment options」とされ、reason の欄には「This criterion focuses on the process by which a decision is reached, not the outcome of the patient's choice, since patients have the right to make 'unreasonable' choices」とある。判定の信頼性について「the reliability of unstructured judgments of competence by physicians has been poor」「simply providing physicians with specific legal standards to guide their judgments… significantly increased interrater agreement (the kappa statistic for agreement increased from 0.14 to 0.46)」と述べ、さらに「There are currently no formal practice guidelines from professional societies for the assessment of a patient's capacity to consent to treatment」と記す。代諾については「Many states have statutes indicating the priority order in which family members may be approached; in general, the order is the spouse, adult children, parents, siblings, and other relatives」。なお著者は MacCAT-T のマニュアル販売に係る報酬を受けている旨を開示している
- 2Mental Capacity Act 2005, sections 1-3UK Public General Acts 2005 c.9 (legislation.gov.uk) · 2005 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 第1条の五原則は「(2) A person must be assumed to have capacity unless it is established that he lacks capacity.」「(3) A person is not to be treated as unable to make a decision unless all practicable steps to help him to do so have been taken without success.」「(4) A person is not to be treated as unable to make a decision merely because he makes an unwise decision.」「(5) An act done, or decision made… must be done, or made, in his best interests.」「(6) …regard must be had to whether the purpose for which it is needed can be as effectively achieved in a way that is less restrictive of the person's rights and freedom of action.」。第2条(1)は「a person lacks capacity in relation to a matter if at the material time he is unable to make a decision for himself in relation to the matter because of an impairment of, or a disturbance in the functioning of, the mind or brain」、同(2)は「It does not matter whether the impairment or disturbance is permanent or temporary」と定める。第3条(1)は能力を欠く状態を「(a) to understand the information relevant to the decision, (b) to retain that information, (c) to use or weigh that information as part of the process of making the decision, or (d) to communicate his decision」の四点で定義しており、これは Appelbaum の四要素(understanding, appreciation, reasoning, expressing a choice)とは異なる組み合わせである。appreciation がなく、retain がある
- 3Consistency of physician judgments of capacity to consent in mild Alzheimer's diseaseJournal of the American Geriatrics Society 45(4):453-457 (Marson DC, McInturff B, Hawkins L, Bartolucci A, Harrell LE) · 1997 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 熟練医5名が、同一の対象者の同一のビデオ記録を見て同意能力を判定した研究。「Competency judgements of physicians showed high agreement for controls but low agreement for AD patients. Physicians as a group achieved 98% judgment agreement for the controls but only 56% judgment agreement for the mild AD patients. The physician group kappa for controls was 1.00 (P < .0001) and differed significantly (P < .0001) from the physician group kappa of .14 (P = .44) for AD patients」。10組の医師ペアのうち7組で有意な判定の不一致が認められた。なお同じ研究グループによる後続研究(Marson DC, et al. J Am Geriatr Soc 2000;48(8):911-918)は「Experienced physicians demonstrated significant agreement assessing competency in AD patients when judgments were based upon specific legal standards」とし、基準を指定した場合の kappa は0.39から0.57であったと報告している。ただし1997年と2000年は別のサンプルであり、被験者内比較ではない
- 4Consistency of physicians' legal standard and personal judgments of competency in patients with Alzheimer's diseaseJournal of the American Geriatrics Society 48(8):911-918 (Marson DC, Earnst KS, Jamil F, Bartolucci A, Harrell LE) · 2000 · accessed 2026-08-20裏付けた主張: 前掲1997年研究と同じ研究グループによる後続研究。判定の際に特定の法的基準(legal standards)を指定した場合の医師間一致度を検討し、「Experienced physicians demonstrated significant agreement assessing competency in AD patients when judgments were based upon specific legal standards. Personal competency judgments of physicians showed a substantially higher level of agreement than found in a previous study, where specific LS were not used. These results suggest that consistency of physician competency judgments can be enhanced if they are guided by knowledge of specific LS」と報告する。アルツハイマー病群における kappa は、治療状況・選択肢の理解(LS5)で0.57、選択に対する合理的理由の提示(LS4)で0.39、個人的判断で0.48であった。ただし1997年研究(対照16名・軽度AD 29名)と本研究(対照10名・AD 21名)は別サンプルであり、被験者内比較ではない
- 5Capacity to Consent to Treatment: Empirical Comparison of Three Instruments in Older Adults With and Without DementiaThe Gerontologist 44(2):166-175 (Moye J, Karel MJ, Azar AR, Gurrera RJ) · 2004 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 中等度認知症の高齢者40名に対し、MacCAT-T、HCAI、CCTI という三つの意思決定能力評価尺度を同時に実施した研究。「Legal standards were operationalized differently across the three instruments for the capacities of appreciation and reasoning」と結論する。正常範囲内と判定された割合は、understanding が MacCAT-T 48.7%・HCAI 63.2%・CCTI 33.3%、appreciation が MacCAT-T 94.6%・HCAI 48.7%・CCTI 51.3%、reasoning が MacCAT-T 75.7%・HCAI 86.8%・CCTI 70.0%、expressing a choice が MacCAT-T 94.6%・HCAI 81.6%・CCTI 97.5%。本文は「In this study, the concept of appreciation was operationalized quite differently on the various instruments as responses to the following: (a) direct questions about reasons to doubt conditions or treatments (MacCAT-T); (b) general questions about why the doctor is proposing a treatment (HCAI); and (c) specific questions about future planning and outcomes (CCTI)」と説明する。閾値は対照群の平均から算出した統計的なものであり法的判定ではない。著者らは尺度の信頼性・妥当性に関する情報が限られていることを限界として挙げている
- 6Does this patient have medical decision-making capacity?JAMA 306(4):420-427 (Sessums LL, Zembrzuska H, Jackson JL) · 2011 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: The Rational Clinical Examination シリーズの系統的レビュー。「Incapacity was uncommon in healthy elderly control participants (2.8%; 95% confidence interval [CI], 1.7%-3.9%) compared with medicine inpatients (26%; 95% CI, 18%-35%). Clinicians accurately diagnosed incapacity (positive likelihood ratio [LR+] of 7.9; 95% CI, 2.7-13), although they recognized it in only 42% (95% CI, 30%-53%) of affected patients」。すなわち42%は感度であり、臨床医は能力を欠く患者の約58%を見落とすが、能力なしと判定したときの精度は高い。MMSE については20点未満で尤度比6.3、20-24点では尤度比0.87で判別に寄与しない。有用な尺度として Aid to Capacity Evaluation、Hopkins Competency Assessment Test、Understanding Treatment Disclosure の3つを挙げる。結論は「Incapacity is common and often not recognized」。対象は重篤な精神疾患を除く成人内科患者であり、精神科集団には外挿できない
- 7Competency of aMCI patients to consent to cholinesterase treatmentInternational Psychogeriatrics 32(2):211-216 (Oshima E, et al., 岡山大学) · 2020 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 健忘型軽度認知障害(aMCI)の患者40名と正常対照33名に対し MacArthur Competence Assessment Tool-Treatment(MacCAT-T)を実施し、半構造化面接の記録に基づくチーム会議の判定と、特別な面接を経ない主治医の臨床判断を比較した研究。「A team conference concluded that 12 aMCI patients had no competency, and the clinical judgement, without any special interview, judged that five aMCI patients had no competency」。結論に「clinical physicians tended to evaluate the competency of aMCI patients in a generous manner」とある。日本の患者と日本の医師における研究である
- 8Decision-making and mental capacity (NICE guideline NG108)National Institute for Health and Care Excellence (UK) · 2018 · accessed 2026-08-31裏付けた主張: 2018年10月3日公表の英国のガイドライン。冒頭に「This guideline covers decision-making in people 16 years and over who may lack capacity now or in the future. It aims to help health and social care practitioners support people to make their own decisions where they have the capacity to do so. It also helps practitioners to keep people who lack capacity at the centre of the decision-making process」とあり、「This guideline should be read in conjunction with the Mental Capacity Act 2005. It is not a substitute for the law or relevant Codes of Practice」と記す。すなわち Mental Capacity Act 2005 を実装する形で、16歳以上の意思決定能力の評価と支援を扱う公的なガイドラインが存在する。2020年には能力評価に関する quality standard も公表されている。したがって Appelbaum が2007年に「学会による正式な実践指針は現在存在しない」と述べた状況は、少なくとも英国については現在は当てはまらない
- 9認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン厚生労働省 · 2018 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 「Ⅲ-2 本人の意思決定能力への配慮」に「本人の意思決定能力は、説明の内容をどの程度理解しているか(理解する力)、またそれを自分のこととして認識しているか(認識する力)、論理的な判断ができるか(論理的に考える力)、その意思を表明できるか(選択を表明できる力)によって構成されるとされる」とある。脚注ⅸは「(1) 本人の意思決定能力は行為内容により相対的に判断される。(2) 意思決定能力は、あるかないかという二者択一的ではなく(連続量)、段階的・漸次的に低減・喪失されていく。(3) 意思決定能力は、認知症の状態だけではなく、社会心理的・環境的・医学身体的・精神的・神経学的状態によって変化するので…なお、本人の意思決定能力は本人の個別能力だけではなく、意思決定支援者の支援力によって変化することに注意すべきである」とする。脚注ⅱは参照元として「イギリスの2005年意思決定能力法(The Mental Capacity Act 2005)」等を挙げる。射程については脚注ⅳが「本ガイドラインは…本人の意思決定能力が欠けている場合の、いわゆる「代理代行決定」のルールを示すものではない。今後、本ガイドラインによって認知症の人の意思決定を支援してもなお生ずる問題については、別途検討されるべきで、この点は本ガイドラインの限界と位置付けられる」と明記する。令和7年3月の第2版では「構成されるとされる」が「構成される」に改められ、「意思決定する行為内容に照らし合わせ」が本文に加えられた
- 10意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン意思決定支援ワーキング・グループ(最高裁判所、厚生労働省、日本弁護士連合会、成年後見センター・リーガルサポート、日本社会福祉士会) · 2020 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 「第2-2 意思決定能力の定義」に「意思決定を行う場面では通常次の4つの要素が必要と考えられる。(1) 意思決定に必要な情報を理解すること(情報の理解) (2) 意思決定に必要な情報を記憶として保持すること(記憶保持) (3) 意思決定に必要な情報を選択肢の中で比べて考えることができること(比較検討) (4) 自分の意思決定を口頭又は手話その他の手段を用いて表現すること(意思の表現)」とある。これは英国 Mental Capacity Act 2005 第3条の四要素に対応する。脚注6は「意思決定能力は法律で定められた概念ではなく、意思能力や行為能力とは異なるものである」と述べる。七原則のうち第1は「全ての人は意思決定能力があることが推定される」、第3は「一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない」、第7は「一度代行決定が行われた場合であっても、次の意思決定の場面では、第1原則に戻り、意思決定能力の推定から始めなければならない」。脚注10は「後見人等は医療行為に関する同意権は有していない」と記す
- 11人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン厚生労働省(平成19年5月策定、平成30年3月改訂) · 2018 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 「2 方針の決定手続」は「(1)本人の意思の確認ができる場合」と「(2)本人の意思の確認ができない場合」に分かれる。(2)は「① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。…③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする」と定める。本人の意思の確認ができるかできないかを判定する基準、四要素、評価尺度、判定者についての記述は本文中に存在しない。解説編の注12は「家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます」とする
- 12身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン厚生労働省医政局総務課長通知 医政総発0603第1号(平成30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 研究代表者:山梨大学 山縣然太朗) · 2019 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 「4.医療に係る意思決定が困難な場合に求められること」に「現実の医療の場面では、一時的に意識を失った患者など本人の意思が確認できない場合も日常的に多くみられます。現時点では、このような場合における本人以外の第三者の決定・同意について、法令等で定められている一般的なルールはなく、社会通念や各種ガイドラインに基づき、個別に判断されているものと考えられます。成年被後見人等の認知症や精神障害・知的障害により判断能力が不十分な人についても、成年後見人等の第三者が医療に係る意思決定・同意ができるとする規定はなく、成年被後見人等に提供される医療に係る決定・同意を行うことは後見人等の業務に含まれているとは言えません」とある。脚注33は「慣習的に家族による決定・同意が行われているほか、近年は厚生労働省や各学会によるガイドラインが公表されている」と記す。医療機関への留意点として「現行制度では、成年後見人等の役割としていわゆる医療同意権までは含まれないことについて十分留意し、成年後見人等に同意書へのサインを強要することがないよう注意して下さい」、また「医療行為の同意については、本人の一身専属性がきわめて強いものであり、「身元保証人・身元引受人等」の第三者に同意の権限はないものと考えられます」とある
- 13第146回国会 参議院法務委員会 第4号 会議録(平成11年11月18日)国会会議録検索システム(国立国会図書館)、答弁者 細川清 法務省民事局長 · 1999 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 成年後見制度の立法時における医療同意の扱いについて、法務省民事局長が「まず、私どもが法案の作成作業でそういったことと関連していることで検討したことをまず申し上げたいと思うんですが、これは医療に関する同意というものがこの代理権の範囲内に含まれるかどうかということが検討されました。結論と申しますと、これは基本的には御本人みずからの意思が大事であって他の人が代理することはできないものである。つまり、医療契約は代理できますが医療行為に伴う医的侵襲、つまり体に対する侵害は御本人だけが決めるべきことではないか。それで、本人に意思がない場合には、これは医療全般の問題として考えるべきである。現在は緊急避難等の法理で解決されておりますが、要するにこれは交通事故で意思がもう働かなくなった、そういう人と同じ問題ですから、医療全般の問題として考えなきゃならないんじゃないか。したがって、これは成年後見と関連して議論すべき問題ではないというのが私どもの結論であったわけです」と答弁している
- 14精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第五条第2項、第二十条、第三十三条e-Gov 法令検索(昭和二十五年法律第百二十三号) · 2024 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 第五条第2項は「この法律で「家族等」とは、精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう」と定め、成年後見人・保佐人を家族等に含める。第二十条(任意入院)は「精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない」と努力義務にとどめる。第三十三条第1項(医療保護入院)は「精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくても…その者を入院させることができる。一 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの」と定める。同条第2項は家族等がない場合等に市町村長の同意で入院させうるとし、第8項は入院期間の更新について「厚生労働省令で定める日までにその家族等のいずれの者からも同項の規定による入院の期間の更新について不同意の意思表示を受けなかつたときは、同項の規定による家族等の同意を得たものとみなすことができる」とする。すなわち成年後見人・保佐人には医療保護入院への同意権が明文で認められている。なお指定医が判定する「第二十条の規定による入院が行われる状態にない」という要件の判定基準は、法律上定義されていない
- 15人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示(令和3年3月23日、令和4年3月10日・令和5年3月27日・令和8年8月27日一部改正) · 2026 · accessed 2026-08-31裏付けた主張: 令和8年8月27日一部改正後の本文を確認した。用語の定義(24)は「代諾者 生存する研究対象者の意思及び利益を代弁できると考えられる者であって、当該研究対象者がインフォームド・コンセントを与えることができる能力を欠くと客観的に判断される場合に、当該研究対象者の代わりに、研究者等又は既存試料・情報等の提供のみを行う者に対してインフォームド・コンセントを与えることができるものをいう」とする。なおこの指針は文部科学省・厚生労働省・経済産業省の告示であり、代諾者の選定順位を示しているのはそのガイダンスである。臨床研究法の対象研究については別に法律・省令の規定がある。第9の対象者要件には「(イ) 成年であって、インフォームド・コンセントを与える能力を欠くと客観的に判断される者であること」とある。ガイダンス(令和3年4月16日、令和5年4月17日一部改訂)の代諾者選定方針は「① (研究対象者が未成年者である場合)親権者又は未成年後見人 ② 研究対象者の配偶者、父母、兄弟姉妹、子・孫、祖父母、同居の親族又はそれら近親者に準ずると考えられる者(未成年者を除く。) ③ 研究対象者の代理人(代理権を付与された任意後見人を含む。)」と順位を示す。また(26)はインフォームド・アセントを「インフォームド・コンセントを与える能力を欠くと客観的に判断される研究対象者が、実施又は継続されようとする研究に関して、その理解力に応じた分かりやすい言葉で説明を受け、当該研究を実施又は継続されることを理解し、賛意を表すること」と定義する。臨床研究法第9条ただし書も「当該対象者の配偶者、親権を行う者その他厚生労働省令で定める者のうちいずれかの者に対し、説明を行い、その同意を得たとき」に同意を代替しうると定めている。いずれも「能力を欠くと客観的に判断される場合」と述べるが、その判断の基準は示されていない
- 16民法 第三条の二、第七条、第十一条、第十五条、第八百五十八条、第九百七十三条e-Gov 法令検索(明治二十九年法律第八十九号) · 2024 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 第三条の二(意思能力)は「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」。第七条(後見開始の審判)は「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は…後見開始の審判をすることができる」。第十一条(保佐開始の審判)は「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」、第十五条(補助開始の審判)は「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」を対象とする。第八百五十八条は「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」。第九百七十三条(成年被後見人の遺言)は「成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない」と定める
- 17成年後見関係事件の概況 —令和7年1月〜12月—最高裁判所事務総局家庭局(令和8年3月) · 2026 · accessed 2026-08-19裏付けた主張: 「令和7年12月末日時点における、成年後見制度(成年後見・保佐・補助・任意後見)の利用者数は合計で259,901人(前年は253,941人)」であり、内訳は成年後見180,828人、保佐58,162人、補助18,078人、任意後見2,833人。また「成年後見関係事件の終局事件のうち、鑑定を実施したものは、全体の約3.4%(前年は約3.8%)であった」とし、鑑定費用は「全体の約85.8%の事件において鑑定費用が10万円以下」であった。開始原因は「認知症が最も多く全体の約61.3%を占め、次いで知的障害が約9.6%、統合失調症が約9.3%」で、注記に「各開始原因は、各事件において提出された診断書等の記載に基づいて分類している」とある。申立ての動機は預貯金等の管理・解約39,871件(93.4%)、身上保護31,655件(74.2%)、介護保険契約19,502件(45.7%)、不動産の処分15,502件(36.3%)などで、医療に関する項目は挙げられていない。申立件数の総数は43,159件
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