言語/2026-06-03
ハンガリー語には「格」が18個ある
ハンガリー語を学び始めた人が必ずぶつかる壁のひとつが、「格変化」です。英語なら in the house や to the house と前置詞で表す意味を、ハンガリー語は単語の語尾に小さなパーツをくっつけることで表現します。そのパターンがなんと18種類。最初に聞いたとき、思わずため息が出ました。
そもそも「格」って何?
「格(case)」とは、文の中で名詞がどんな役割を果たしているかを示す仕組みのことです。日本語にも似た仕組みがあります。「家で」「家に」「家から」——この「で・に・から」に相当するものが、ハンガリー語では語尾として単語にくっつきます。
たとえば「家」を意味する ház(ハーズ)という単語。これを使って場所を表すと次のようになります。
- házban(ハーズバン)——家の中に(英語の in the house)
- házba(ハーズバ)——家の中へ(英語の into the house)
- házból(ハーズボール)——家の中から(英語の out of the house)
「中にいる状態」「中に入る動き」「中から出る動き」を、語尾の違いだけで区別しているのです。英語だと前置詞を変えるだけですが、ハンガリー語では単語そのものが変形します。
18格の内訳をちょっとだけ覗いてみる
18格のすべてを一度に覚えようとするのは得策ではありませんが、大きく分けると「場所に関する格」「方向に関する格」「その他の関係を示す格」の3グループに整理できます。
場所系だけでも、「表面の上にいる」「表面の上へ移動する」「表面から離れる」、「内部にいる」「内部へ入る」「内部から出る」、「そばにいる」「そばへ近づく」「そばから離れる」と、3×3で9種類あります。英語なら on / onto / off、in / into / out of、at / to / from に相当する区別を、すべて語尾で表現するわけです。
残りの格には、「〜のために」「〜として」「〜と一緒に」「〜なしに」「〜について」「〜によって」などが含まれます。これらを合わせて18格。壮観ですよね。
日本語話者には意外と親しみやすい?
ここで少し希望が見えてきます。英語話者にとってはチンプンカンプンな格変化も、日本語を母語とする人には「あ、日本語の助詞みたいなものか」と感覚的につかみやすい面があります。
日本語の「〜に」「〜で」「〜から」「〜へ」がそれぞれ意味を持つように、ハンガリー語の語尾も一つひとつに明確な意味があります。ルールさえ覚えれば、あとは機械的にくっつけるだけ——というのは言い過ぎですが、「前置詞の使い分けを丸暗記しなければならない英語」より、体系的に学べる余地があるとも言えます。
ただし、ハンガリー語には「母音調和」というルールがあり、語幹に含まれる母音によって語尾の形が変わります。ház(家)には -ban がつくのに、kert(庭)には -ben がつく。同じ「内部にいる」格なのに、語尾の母音が違うのです。これがもうひとつの壁ですが、それはまた別の話。
ハンガリー語は難しい——その評判は本当です。でも、その難しさの中にきちんとした論理があって、ひとつひとつ解きほぐしていく楽しさがあります。格変化を覚え始めると、単語が変形するたびに「あ、これは〜から離れる格だ」と気づける瞬間が来ます。その瞬間が、じわっと嬉しいんです。

