夏の定番、ハンガリーのレチョー
6月も終わりに近づき、ブダペストの市場には黄緑色をした細長いパプリカと真っ赤なトマトが山のように並ぶようになりました。この時期、ハンガリーの家庭の台所からよく漂ってくる匂いが「レチョー(lecsó)」です。パプリカとトマトをくつくつ煮込んだだけの、見た目はとても素朴な一品ですが、夏になるとどの家庭にも欠かせない定番料理なのだそうです。
レチョーって、どんな料理?
基本の材料はシンプルで、ハンガリー産の黄色いとんがりパプリカ、トマト、玉ねぎ、そして粉パプリカです。玉ねぎとパプリカをラードや油でじっくり炒めてからトマトを加え、塩と粉パプリカで味を整えて煮込みます。家庭によってはここに卵を落としたり、ソーセージ(コルバース)を加えたりと、アレンジは様々。パンと一緒にそのままお昼ご飯にする人もいれば、チキンや豚肉料理の付け合わせとして出す人もいます。
バルカン半島から伝わった歴史
実はトマトとパプリカ自体、もともとハンガリーに自生していた野菜ではありません。オスマン帝国の支配を通じてバルカン半島に伝わったのち、北上してハンガリーにもたらされたといわれています。記録によれば、1870年頃にはカルパティア盆地でブルガリア人の菜園農家たちが、すでにこの煮込み料理を野外の火で作っていたとされ、ハンガリー人がそこに粉パプリカを加えて、今のような味に仕上げていったようです。隣国のチェコやスロバキア、かつてのユーゴスラビア圏でも似た料理が食べられており、国境を越えて愛されている家庭料理だということがわかります。
家庭ごとに違う「うちのレチョー」
ハンガリーでレチョーの話をすると、誰もが「うちの作り方が一番」と言うほど、家庭ごとの個性が出る料理でもあります。卵を加えるか、ソーセージを加えるか、辛いパプリカを使うかどうか。夏には専用のお祭りが開かれる地域もあるそうで、それだけ人々に親しまれている証なのだと思います。
市場でつやつやのパプリカとトマトを見かけたら、ぜひ一度、自分なりのレチョーを作ってみてはいかがでしょうか。シンプルな材料だからこそ、その家庭らしさが一番出る料理なのかもしれません。

