EXPLORE BY FIELD
医療×経済学
医療費・自己負担・病院経営を、経済学の道具でどこまで説明できるか。
FIELD & MEDICINE
この分野と医療
医療費は増えている、だから制度は持たない。この種の議論は、増え方の中身と「危険水準」の根拠を確かめないまま語られやすい。ここでは、経済学の道具(自己負担の理論、費用の分解、対GDP比の読み方)を医療の数字に当て、言えることと言えないことを分ける。
この分野の記事
新しい記事から医療費の対GDP比は、何と何の比なのか
「医療費の対GDP比」は一つの指標ではなく、異なる分子・期間・データ版を持つ比率の総称である。厚生労働白書は同じ年度に四つの値を載せている。2020年度、国民医療費は前年より減ったのに対GDP比は上がった——分母が縮んだからである。2011年の系列の段差は1.429ポイントで、うち約0.94ポイントは国際会議の採決で決まった長期介護の算入範囲による。読む際には、分子の範囲、年度か暦年か、取得・改定時点、そして分子と分母それぞれの変化を併記する必要がある。調べた範囲では、支出抑制の上限として運用されている対GDP比は見つからなかった。
療養病床の最低区分は、なぜ安いのか
急性期一般入院料1は一日18,740円、療養病棟の最低区分は9,010円。ただし両者は包括範囲が違い、この点差をそのままコスト差と呼ぶことはできない。最低配置基準と平均給与からモデル化すると、療養病棟では医師・看護師という高資格職の配置密度が大きく低い一方、看護補助者への職種置換だけで説明できる差は小さかった。そして介護保険創設時に語られた「社会的入院解消で5千億円」は実績値ではなく仮定だった。「安い」の中身を分解する。
病院の『経営難』は、どこまで『新しい危機』なのか
「危機」の3層構造のうち②個別医療機関の経営難を、実際の収支構造まで分解して検証する。コロナ補助金の剥落、人件費と光熱費の内訳、病床稼働率という数量要因、そして公立病院だけが突出して悪いという開設者間の格差——集計された「赤字率」の裏側にあるものを一次資料で確認する。「前提を疑う」シリーズ第9回。
医療費の対GDP比に、『危険水準』というものは存在するのか
医療費が対GDP比で何%を超えると『危機』なのか。国や時代を超えて適用できる、広く受け入れられた実証的な危険水準は、今回確認できなかった。しかもこの問いには、財政的に賄えるかという持続可能性、便益が機会費用を上回るかという最適性、同じ支出でより良い結果を出せないかという効率性——三つの別の問いが潜んでいる。国際文献、債務対GDP比をめぐる「魔法の閾値」論争、そして2026年7月に骨太方針が医療給付費の対GDP比を参照指標として明記したことと、それへの日本医師会の即時反発を通じて検証する。「前提を疑う」シリーズ第8回。
『静かな持続可能性の危機』は、本当だったのか
本サイトの創刊記事は、日本の医療制度が「静かな持続可能性の危機」に直面していると書き出した。その根拠として引用した2本の論文を一次資料まで遡って読み直し、これまでの「前提を疑う」シリーズが明らかにしてきたこと、そして原著者自身による15年後の再評価と突き合わせる。シリーズの中間振り返り。
自己負担3割は、経済学的に正しいのか
医療需要には価格反応がある。だから自己負担をゼロにすればよいわけではない。しかし価格反応があることから「一律3割」が最適だとは導けない。RAND以来の研究が示すのは、患者が高価値の医療と低価値の医療を選り分けて減らすわけではないということである。日本の制度はさらに、年齢・所得・月額上限・年間上限によって限界価格が大きく変わる非線形な構造を持つ。ただしその差別化の軸は、臨床的価値ではなく支出額と負担能力である。問いは「3割か1割か」ではなく、何に、誰に、どの価格を付けるのかである。「前提を疑う」シリーズ第5回。
高齢化は、医療費増大の「主犯」なのか
総論は「高齢化→医療費増大」を前提に組み立てられている。だが問うべきは高齢化が医療費を増やすかどうかではない——増やすことはほぼどの文献も認めている。問うべきは、高齢化が伸びをどこまで説明するのか、そしてその寄与が医療の種類によってどう違うのかである。急性期医療と介護、マクロとミクロで結論が分かれる「レッドヘリング仮説」を軸に検証する。同じ「高齢化による増加分」という言葉が、学術では原因の分析として、予算編成では歳出管理の基準として使われていることも扱う。「前提を疑う」シリーズ第2回。
医療費が増えても、医療の質が上がるとは限らない
医療費の増大を「危機」と語る前に、支出が医療の質にどれだけ転化しているかを問う必要がある。回避可能死亡・ACSC・OECD HCQIといった指標を手がかりに、支出と質の関係を国際比較・国内データの両面から検証する。支出と成果には平均的には正の関係があるが、それは線形ではなく、同じ支出水準でも国・地域・施設によるばらつきが大きい。日本でも測る部品は揃ってきた——OECD指標、DPC、NDB、医療の質可視化プロジェクト。足りないのは、支出とリスク調整済みアウトカムを結び付けて value for money を検証する接続の部分である。「前提を疑う」シリーズ第1回。
医療制度の持続可能性に、地域医療はどう応えられるか
高齢化・医療費増大・医師偏在という複合的圧力の中で、日本の医療制度の持続可能性を総論として整理する。ここで見えてくるのは、単純な医師不足でも高齢化でもなく、限られた人材をどの地域・どの機能・どの診療場面へ配分するかという配分と連携の問題である。地域医療構想、かかりつけ医機能、総合診療、地域包括ケアは、いずれもその配分を変えようとする異なる制度的アプローチにあたる。ただしそれらが医療費を抑え、質を保ち、持続可能性を実際に改善するかは、それぞれ別に検証する必要がある。以降の各論はその検証である。