EXPLORE BY FIELD
医療×専門職論
診療科・専門医はどう成立し、何が総合診療を専門領域にしてこなかったか。
FIELD & MEDICINE
この分野と医療
診療科の枠は医学の中身から自然に決まったものではなく、制度上の標榜、専門医の認定、学会の成立、研究の方法論といった条件の積み重ねで決まる。ここでは、専門職が成立する条件を軸に、総合診療・救急・老年といった領域が何を満たし何を満たしていないかを比べる。
この分野の記事
新しい記事から専門科の境界は、何が引いたのか
内科や外科は一見どこの国でも同じものを指すように見えるのに、総合診療だけが定まらない。なぜか。「道具が科を作った」という仮説を立て、文献で検証した。結果はそのままの形では成り立たなかった。医学史は1940年代以降この説を退けており、年表も逆を向いている——1839年のパリの専門誌には検眼鏡の12年前に「目の病気」が載っている。1862年の書評子は喉頭鏡について「専門科にする話ではない」と書いた。ただし「道具は科を作らなかった」も言いすぎで、道具はしばしば境界の軸や正当化として働いていた。分類が対象を作り、技術が実践可能性と正当化を与え、職業集団が管轄を要求し、制度が境界を固定する。
老年科は、なぜ標榜できないのか
この夏、ハンガリーの病院で実習した。配属先は老人科だった。日本の病院でその看板を見たことがない、と思ったところから調べ始めた。ハンガリーでは老年医学は医学部から直接入れる58か月の基本専門科で、包括的高齢者評価100例が法令で必修になっている。日本にも老年科専門医という資格はある。ただし「老年科」は単独の診療科名としては広告できない。違いは老年医学があるかないかではなく、高齢者を横断的に診る専門性を医療システムのどの階層に置くかにある。
総合診療の研究デザインは、本当に未確立なのか
前の記事で「検証として設計できる人が足りない」と書いた。だが調べると、日本専門医機構の整備基準は量的研究と質的研究の双方を到達目標に明記している。研究法そのものは存在する。足りないのは、その方法を信頼できる形で実装できる研究基盤の方だった。島根の数字を47都道府県8年分のデータで自分で組み直すと、単純な率比の分散の8割が介入前のわずか8件から来ていた。モデルは書ける。だがモデルを書けることと、識別に足るデータが存在することは別である。
救急医学は、なぜ標榜科になれたのか
救急医も総合診療医も、臓器を問わず未分化な訴えを引き受ける。それなのに救急の学問性が問われることは少ない。だが調べると、救急は1983年に「医師は誰でも急患を診療する立場にある」という理由で標榜科を拒まれ、25年待って2008年に勝ち取っていた。その2週間前に「総合科」は葬られている。両者を分けたものは何だったのか——そして「場を持つこと」は、本当に学問を与えたのか。
総合診療に、学問の基盤はあるのか
前の記事で「学問の確立こそ最優先ではないか」と書いた。ただしそれは未検証の直感だった。学会も学術誌もあり、会員数は救急医学会を上回る。しかし科研費の審査区分表に総合診療という枠は存在せず、文科省の最新方針に「講座」の二文字は一度も現れない。大学の総合診療部門が研究に割く労力は15.6%、その研究の0.7%しかプライマリ・ケアではない。基盤がないのではなく、基盤が一点に集まっていない——その構造を、一次資料と国際比較から検証する。
総合診療専門医は、増えているのか
2018年、総合診療は19番目の基本領域として制度化された。それから8年、専攻医数は全体の3%前後で推移し、2026年度は2021年度以来の減少になった。専門医937人の内訳、志望する医学生14.6%との隔たり、期限を超過した標榜科の議論、そして米国家庭医療が1960年代に経験した募集難との重なりから、この制度の現在地を検証する。
総合診療医を目指す理由——構造を辿ること、そばにいること
医師のいない家庭に生まれ、なぜ自分が医師を、それも総合診療医を志すようになったのか。幼少期の記憶、中高時代のある行動パターン、医学部受験の面接で初めて向き合った問い、そしてハンガリーでの医療現場との出会いから、その道のりを辿る。
専門医偏重は、本当に多疾患併存ケアに非効率なのか
総合診療の必要性を支える中心的な因果推論だが、総論自身が「国際知見の輸入であり日本国内の実証研究は見つからなかった」と認めていた前提を検証する。国際文献では「専門医偏重」自体を直接検証した研究は少なく、より頑健な説明変数は継続性(continuity)と分断(fragmentation)であることが分かった。日本では233万人規模の全国データがまさにこの検証に迫っているが、国内の学会誌自身が数年前まで該当する日本語原著論文がゼロだったと認めている。「前提を疑う」シリーズ第3回。